令和5年度西日本図書館学会春季研究会 発表概要
13:30-14:00 発表(1)
【オンライン】公立図書館は,出版社・学会等からの回収要請を受けた所蔵図書をどのように考えて取り扱っているのか / 安光裕子・藪本知二
2022年3月に全国の公立図書館(都道府県・市・特別区・町・村立)464館を対象に,内容の捏造・差別表現・著作権法違反などを理由に購入者に対して出版社・学会等からの回収の要請があった図書(以下,「出版社・学会等からの回収要請図書」という。)についての取扱い,ならびにその「出版社・学会等からの回収要請図書」の取扱いにあたって考慮する事項およびその事項の重視の程度を明らかにする目的でアンケート調査を実施した。
なお,「出版社・学会等からの回収要請図書」の取扱いとは以下の5項目である。すなわち,①所蔵している「出版社・学会等からの回収要請図書」が開架されている場合,保存場所を変更するか否か,②所蔵している「出版社・学会等からの回収要請図書」を除籍廃棄するか否か,③所蔵している「出版社・学会等からの回収要請図書」の閲覧を認めるか否か,④所蔵している「出版社・学会等からの回収要請図書」の閲覧を認める場合,「出版社・学会等からの回収要請図書」であることを口頭または書面で伝えるか否か,⑤内容の捏造・差別表現・著作権法違反などがないように「出版社・学会等からの回収要請図書」を改訂した図書を収集するか否か,である。
このたびの発表会では,上記の調査結果の概要とそこから得られる示唆について発表する。
14:05-14:35 発表(2)
【オンライン】米国の公共図書館協会が提唱した公共図書館の役割 / 橘風吉(東京大学 法学部研究室図書室)・大庭一郎(筑波大学 図書館情報メディア系)
アメリカ図書館協会(American Library Association:略称ALA)は、1933 年に「公共図書館基準」を作成し、その後、公共図書館の基準を定期的に開発・発表した。ALA の公共図書館部会(Division of Public Libraries)は、1944 年に設立され、1959 年に公共図書館協会(Public Library Association:略称 PLA)に変更された。公共図書館部会(後の PLA)は、公共図書館の基準策定に取り組み、1956 年の『公共図書館サービス』、1966年の『公共図書館システムの最低基準』を刊行した。これらの基準では、公共図書館の画一的な全国基準が設定されていた。しかし、1970 年代後半以降、PLA は、このような全国基準の策定をやめて、個々の図書館が地域社会を調査し、コミュニティのニーズにあった目標を立て、目標の達成計画を策定・実施・評価するマニュアルを提供するようになった。PLA は5種類のマニュアル(1980年版、1987 年版、1998 年版、2001 年版、2008 年版)を刊行してきたが、1987 年版では8種類の公共図書館の役割(public library roles)を提唱し、1998年版ではコミュニティのニーズに対する 13 の公共図書館のサービス対応(public library service responses)へと拡張され、2000 年代以降も継続改訂されてきた。PLAが提唱した公共図書館の役割の誕生に関する個々の論考は発表されているが、役割の発展段階や改定等の全体的な分析・考察は、十分に行なわれていない。
そこで、本研究では、米国の公共図書館における図書館サービスの設計手法に関する基礎研究の一環として、米国の公共図書館協会が提唱した公共図書館の役割(サービス対応)の開発過程と改訂状況をまとめ、役割の機能と役目について分析・考察した。
14:40-15:10 発表(3)
【会場】図書館は市民啓発の場としよう考えた本の紹介/宍道勉
図書館人として日本の図書館界に関わり60年に及ぼうとするが、その社会は全く変わらないどころか、ディジタル化を進めることに熱心ながら活動は渋滞どころか、見方を変えればますます衰退の道を辿っている。その最も、否唯一の問題点は図書館が利用者に対する対処である。サービスにこだわる余り、街で日常使われる意味の「タダで、おまけをしてやる」そのままである。つまり日本の図書館は「公」、お役所の発想である。つまり利用者(市民、子供達)は図書館(人)に頭が上がらない、見下ろす姿勢であり、何かにつけ、与えよう、教えようとする点に見られる。その考えを変え、図書館は利用者と対等にあるとの意識が大切、と発表者は当学会で幾度も訴えてきた。つまり図書館は与えるだけでなく、利用者が責任を持って図書館に参加できる雰囲気を醸し出すことが、両者の向上につながる。
しかるに日本の図書館は政治社会と同様、明治時代の西洋思想を鵜呑みにし、その方法に求め、そのまま受け入れた。しかし時代が変わっても、西洋を尊重するのは変わらず、翻訳が有効であるかのようにと、それに従うのを良しとして現在に至っている。いや最も重要と思われる利用者について、サービスの例が示すように、言葉を変えれば「保守的」で、日本にはオリジナル図書館思想が存在しない。
特に図書館に招くことには熱心だが「利用者参加」が疎かになっている、そこを重視して発表者は従来の発表者の考えを集約した市民の啓発につながる発表者独自の思想を小冊子としてまとめた。
すでに当学会でも何度か述べているが、今回は改めてそこに至る経緯を述べる。
15:40-16:10 発表(4)
【会場】図書館サービスにおける対話型AI導入についての予備調査 / 佐藤晋之(別府大学文学部司書課程)・石井保廣(別府大学客員教授)
近年、文章や画像、音声、映像などのコンテンツ生成AIが登場し、対話型AIのchatGPTはビジネスや教育などでの利用について議論がなされている。chatGPTは、自然言語処理技術を用いたチャットボットであり、質問に答えたり、自然な会話をしたり、翻訳したり、文脈を読み取ったりできる。そこで、chatGPTが図書館員の役割を代替できるのではないかと考えた。例えば、直接サービスでは、読書相談やレファレンスなどが挙げられ、間接サービスでは、資料の組織化や検索サポートなどが挙げられる。chatGPTを活用することで、ヒト(図書館員や利用者)の時間と労力、心的負担が軽減されることが考えられる。本稿では、既存のレファレンス事例を対象に図書館サービスにおけるchatGPTの有用性について予備調査を実施し課題を検討する。
予備調査は、レファレンス事例から3種類の質問内容(語源、意味、読書相談)をそれぞれ10件ずつ無作為に抽出し、既存の回答とchatGPTの回答を比較した。また、chatGPTに入力する際、質問者の属性や質問の背景といった質問の文脈を構成する情報(以下、外的情報と呼ぶ)の有無による回答についても比較した。
予備調査の結果で分かった主な課題は、外的情報が無いもしくは不足している場合に情報要求の正確な把握が困難となるため、適正な外的情報を入力できるかが挙げられる。次に、回答の正誤について確証を得ることや情報要求を満たしているかといった品質に留意する必要があることが分かった。また、利用者が提供した情報の漏洩や不正利用といった個人情報を防ぐ工夫が必要になる。さらには、得た回答の著作権についての配慮が求められ、そこに図書館員の介在が必要である。そして、新技術導入の際には、使用方法など利用者へのサポートが必要となり、図書館員にそれらの知識や技術が求められる。また、図書館システムではない技術であるため、サービスを安定して提供できる保証がないといった技術的課題が挙げられる。
インターネット上の大量の情報を処理できるAIと専門知識やコミュニケーションによって情報要求を正確に把握できるヒトの役割分担が必要だと言える。chatGPTの開発や運用には、利用者が求める情報に対応するための図書館スタッフの専門知識や利用者のフィードバックを反映させる仕掛が必要であろう。今後の課題は、本調査に向けて対象とする質問内容の種類の選別や回答の質を上げるために必要な外的情報を明確にすることである。
16:15-16:45 発表(5)
【会場】『追放図書目録』にみる戦後公共図書館で「追放」された図書 / 川戸理恵子(鹿児島女子短期大学)
第二次世界大戦後、GHQは日本における占領政策として「宣伝用刊行物」の没収を行った。その没収は図書館を除外対象としながらも、実際は公共図書館にも影響を及ぼしていた。この時期、各地でこの没収に関連した図書のリストが作成されたことが推測されるが、その多くは覚書に記された没収対象となった宣伝用刊行物の書誌であると考えられる。そのような中で鹿児島県立図書館では、「昭和24年1月所蔵資料の歴史的意味を考えて追放図書目録を作成した」(『鹿児島県立図書館史』p.73)という。この『追放図書目録』に関し、鹿児島県立図書館では作成時期の異なる二種を所蔵している。一つは、県立図書館史にある通り1949年を発行とするもの、もう一つは追放図書を公開した時期と近い1993年を発行とするものである。この二つは収載されている図書に違いが見られる。そこで、まずは現在「追放図書」として所蔵されているものと連なる1993年の目録について、その特徴を把握することにした。先行研究により、目録のうち宣伝用刊行物として没収対象とされた図書は3分の1程度であること、『日本十進分類法』における第一次区分での比率が明らかにされている。しかしながら追放図書を確認すると、その中には図書本体の誤植により国立国会図書館で登録されている書誌情報とタイトルが異なるケースや、県立図書館内で所蔵する複本とで異なる分類記号が付与されているケースが確認できた。そこで『追放図書目録』および同館OPAC登録情報と国立国会図書館サーチから得られる情報を比較した。本発表は、主にその中で得られた情報についてまとめることで追放図書について考察するものである。
16:50-17:20 発表(6)
【会場】大学生の情報活用能力に対するコロナ禍の学びの影響 / 庄ゆかり(広島文教大学教育学部)・石井美絵(広島文教大学附属図書館)
令和5年5月8日より、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類が5類へと移行し、多くの教育現場では従来型の教育・学習活動を再開した。しかし、様々な対応を迫られたこの3年間の学びは、学生の情報活用能力育成にも影響している可能性がある。
本研究の目的は、コロナ禍での学びの経験が情報活用能力育成に与えた影響について、学生アンケート等で収集した学生自身の声を分析することにより、これからの情報リテラシー教育への示唆を得ることである。
広島文教大学では、教育学部1年次必修科目の中で、「文献検索・調査」に1コマをあて、一斉授業による文献検索演習に加えて、司書教諭課程3年生による班単位での文献検索指導と図書館利用案内を実施している。過去3年間は対面での指導が行えなかったが、今年度は3年ぶりに学生同士での文献検索ガイダンスが復活した。1年生164人が選択した研究テーマにより44班に分かれ、一斉授業の後、各班を担当する1~2名の3年生の案内で研究テーマに関する参考文献の所在確認を行い、図書館に行って資料探索法や貸出・複写等の資料入手法の説明を受けた。
この文献検索ガイダンスで指導者となった3年生と、指導された1年生の学生アンケートや振り返りには、コロナ禍での教育・学習活動の様子と、その中で育まれた学生自身の情報活用能力を推し量ることのできる記述が多く含まれる。本研究では、主としてこの授業で収集した学生自身の声を中心に分析し、教育者(教員)と支援者(図書館員)の経験をもとに考察した結果を発表する。
17:25-17:55 発表(7)
【会場】優しくなければ、図書館じゃない!!/ 山本順一
2019年11月4日(月)の「朝日新聞」朝刊、「声 オピニオン&フォーラム」欄に「二度と図書館に行かなかった夫」と題する広島県に住む当時60歳の主婦が寄せた4年前に亡くなった夫の追憶を記した投書があげられている。読書が大好きな病弱の夫のためにふだんは彼女が最寄りの図書館で代わって本を借りていた。たまたま体調がよくなり、「自分で本を選びたい」という夫とともに彼女は図書館に出向いた。立ったまま本を選ぶことがつらい夫を気づかい、彼女は書架の前にいる夫のところへ近くにあった椅子を動かした。それを見た図書館職員は「勝手に椅子を異動させないでください」と言って、夫を注意した。彼女はその図書館職員に対し、夫の病気について説明し、椅子を使わせてもらえるよう懇願した。しかし、その図書館職員は、にべもなく「決まりは決まり」と冷たく言い放ち、椅子の利用を許さなかった。夫は二度と図書館に行こうとはしなかったそうである。彼女は、この図書館職員の‘心のバリア’を糾弾し、図書館の「ハード面(のバリアフリー)が充実しても人の心にバリアがある限り、(障害や病気のある人が自由に活動できる社会の実現は)難しい。(図書館職員のように)公共の仕事をする人には、人の心を想像する優しさと柔軟さが求められる」と述べ、この投書を締めくくっている。
‘図書館は学生たちの勉強部屋ではない’という不文の‘決まり’に対して、ある弁護士が「そんな法規定がどこにある」と指摘し、図書館で働く人たち、地方自治体は「ちゃんと法律を勉強しろ」といった。図書館法7条の2に基づく「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」に「市町村立図書館は、高齢者、障害者、乳幼児とその保護者及び外国人その他特に配慮を必要とする者が図書館施設を円滑に利用できる」のは当然としている。しかるに、図書館設置条例、図書館規則、そして指定管理者業務仕様書などを見ても、入館の制限、利用制限、利用者の義務などの規定は高らかにうたわれているが、 ‘高齢者や病弱な利用者には優しくするんですよ’という法令以前の条理、自然法、倫理はこの国の図書館職員には浸透していないように感じられる。
この国の図書館の法規運用と解釈について、一緒に考えてみたい。