西日本図書館学会 令和元年度 春季研究発表会

<発表要旨>

15:00 インターネット資料の引用と日本の学術雑誌

遠山潤(久留米大学文学部)

概要 :  『久留米大学文学部紀要
情報社会学科編』第14号に「資料」として掲載するデータを基に図書館の視点を加えて発表する。日本の学会はインターネット経由で取得した文献を利用することについて、学会員や学会誌の投稿者に対しどのような方針を出しているのか、またその内容は研究領域によってどのような違いがあるのか。この二つの課題に関する調査結果の報告である。

方法は、サイト「学会名鑑」に掲載された2030の学会の中から、一つの学問分野に属しかつ全国規模の学会であるものという条件で絞り込んだ1233学会に対し、「執筆要項」の有無と内容、「文献の引用」に関する記述の有無と内容を当該学会サイトで調べた。その結果、調査対象の中で「執筆要項」69%、「文献の引用」66%、「インターネット資料の引用事例」23%、「インターネット資料引用の指針」8%が公開されているという結果が得られた。部門別に見ると、どの項目も人文・社会科学分野で少なく、生命科学、理学・工学分野で多かった。

インターネット資料の引用自体に関する考え方を公表している学会は6%あった。内容は、公的機関以外のホームページから引用することは原則認めない、印刷物で同じ情報が得られる場合は印刷物が優先される、インターネット資料は内容の永続性に問題がある、プリントアウトしたものを保存しいつでも提出できるようにすべきだ、といった意見が主なものであった。

15:30 図書室登校をしている生徒たちの実態報告

橋本あかり(桃山学院大学経営学研究科修士課程)

概要 : 2018年4月から週に1度参与観察を続けている私の母校、堺市にある香ヶ丘リベルテ高等学校(女子高)の図書室は、読書センターとしても、学習センターとしても、また情報センターとしても、十分な役割を果たすことができていない。この香ヶ丘リベルテ高等学校の図書室にも、常習的に図書室登校をしている生徒が数人存在している。一般的には、自分の教室に入ることができない生徒は保健室に登校しているというイメージがもたれていると思われる。しかし、同一法人が設置運営する3つの学校が同一キャンパスにあるひとつの保健室を共用しており、保健室は生徒たちの怪我や風邪などに対応するのが精一杯で、クラスメートとのトラブルが原因、もしくは内面的な事情から、自分のクラスの教室に入っていけない生徒たちを保健室が受け入れられる状況にはない。そのようなことから、香ヶ丘リベルテ高等学校では、そのような通常は保健室でケアするであろうと思われる生徒たちを図書室が積極的に受け入れていることが理解できた。週に1度だけの参与観察ではあるが、優に1年間を超えるつきあいから、図書室登校の生徒の何人かと関わることができ、彼女たちのおかれた状況もそれなりに解釈できる部分が少なくないように思われる。

 今回の学会発表では、図書室登校の生徒への学校側の学習支援やそれらの生徒たちに対する教職員個々の関わり方、教室に復帰するためのサポートなど、これまでの参与観察で認識できたことを取り上げたい。図書室を学校生活の拠点とする生徒たちは、なぜ自分の教室に入ることができなくなったのか、なぜこの高等学校では自分の教室に入ることができない生徒たちを保健室などで受け入れようとせず、むしろ図書室を積極的に活用している状況を明らかにしたい。学部の司書課程や学校司書課程、そして大学院経営学研究科において図書館情報学を研究してきた自分が学んできた学校図書館とは見事に異なっているのである。学校図書館のテキストや関係論文に書かれていることとは違うことに気が付いてしまった。うかつにも、自分の後輩である生徒たちを見守るなかで、自分自身の高校生活をあらためて振り返りながら、唯一のヘビーユーザーである図書室登校の生徒たちに対して、理解できたことを具体的に論じてみたい。2018年度の学校基本調査では高等学校は4,897 校あるとされるが、図書室登校の姿はすべて異なるように思う。これまで学校図書館の研究、教育実践においても図書室登校についての具体的記述はほとんど見られない。特殊な事例ではあるが、参与観察をしてきた約1年2ヵ月の間で見てきた図書室登校についてのケーススタディを報告する。

16:00 アリゾナ州コチセ・カウンティ図書館行政区のOne County One Cardシステムについての考察

山本順一(桃山学院大学経営学部経営学研究科教授)

概要 : アリゾナ州の南東の隅に位置するコチセ・カウンティ図書館行政区(Cochise County Library District)は、地元地域社会の働きかけにより、1986年に州法にもとづき創設された。管轄区域の面積はロードアイランド州とコネチカット州を合わせたものに相当し(16、106。5 km2;岩手県を上回る)、人口は増加傾向にあるが2017年現在で124、756人に過ぎない。州の下部行政組織であるコチセ・カウンティは、1970年代から管内の図書館の支援に乗り出していた。1996年から97年にかけて各館にコンピュータシステムが導入され、 従来においては図書館利用者は図書館ごとに1枚のカードを作成し、ヘビーユーザーは複数の利用者アカウントを有し、図書館側は煩雑な事務処理を強いられてきた。

 コチセ・カウンティ図書館行政区は、2019年5月に‘同一カウンティ(郡)内(の図書館利用)は1枚のカードでOK’(One County One Card)システムを実施する。2017年からこのプロジェクトに取り組み、貸出規則を統一し、関係システムを更新し、トータルで20万冊の所蔵資料にとどまるがオンライン目録を整備し、データベースの構築を進めてきた。ことさらに地元自治体と構成図書館の費用負担はなく、ゼロである。図書館行政区を構成する7つの市町村の図書館は12館で、 5館は図書館行政区が、7館は構成自治体が独自に運営している。複数の図書館を利用してきた利用者はホームライブラリーを特定し、単一の利用者アカウントに統一しなければならない。しかし、それによって延滞料その他の支払がクレジットカードで処理できたり、様々な特典が享受できる。

 アメリカの公共図書館界においてワンカード・システムは必ずしも珍しいものとはいえないようであるが、コチセ・カウンティ図書館行政区のディレクターを務めるアマディー・リケッツ(Amadee Ricketts)氏とやりとりをする中で得た資料、情報を活用し、そのメリットとデメリットを明らかにしたい。

日本の公立図書館においても各地で広域利用がなされているが、それとの対比にも言及したい。