西日本図書館学会令和5年度秋季研究発表会 発表概要
13:10-13:40 発表(1)高等学校国語科(現代の国語)における探究的な学習の取組みの実現に向けて~パスファインダーの作成を通した実践~
/ 上釜千佳(鹿児島城西高校)、工藤邦彦(別府大学司書教諭課程)
高等学校では、2022年度より新たな学習指導要領による授業が実施されることになった。そのため、全ての教科において「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が必要とされている。例えば「現代の国語」では、「他者との関わりの中で伝え合う力を高め、思考力や想像力を伸ばす」ことが目標として掲げられている。とくに話すこと・聞くことの学習では、「集めた情報を資料にまとめ、聴衆に対して発表する活動」が示されている。そのため、授業を通じ、パスファインダー作成をおこない、作成したうえで発表を行うという主体的な言語活動を伴う学習を通して、学習指導要領で言われている「主体的・対話的で深い学び」や、探究的な学習の取組みができるのではないかと考えた。
具体的には、発表者が非常勤講師として勤めている鹿児島城西高校では、高校1年生の1学期の「現代の国語」の授業で、『未来をつくる想像力』を取り上げている。情報と想像力の関係を論じた評論文である。この単元のコラム「考えよう」では、単元を深めるための教材として、「メディアの付き合い方」を取り上げている。メディアといっても様々な媒体があり、メリット・デメリットは異なる。本授業では書籍に焦点をあて、書籍のメリット・デメリットを考えさせるとともに、パスファインダーを作成し、まとめたものを発表させた。実践報告とともに、パスファインダー作成を用いた授業の学習効果や課題、可能性について発表していく。
パスファインダーとは、図書館における情報発信活動の方法・手段であり、情報収集の一助と捉えられている。パスファインダーが、学習指導の中でどのような有効性を持っていて、探究的な学習をおこなう中での効果はあるのだろうか。学校図書館は「情報活用能力の育成や問題発見・解決能力の育成に資する役割を担っている」と言われており、情報センター、学習センターとしての役割が求められている。パスファインダー作成を授業に組み込むことでの成果や課題についてまとめるとともに、高等学校国語科の中でパスファインダー作成を通した授業と探究的な学習の取組みの実現に向けて検討していきたい。
13:45-14:15 発表(2)北九州市における「図書館を使った調べる学習コンクール」の取り組み~北九州市立八幡図書館の事例を中心に
/ 富原まさ江(北九州市立八幡図書館<株式会社図書館流通センター>)
1997年に始まった「図書館を使った調べる学習コンクール」(NPO法人図書館の学校主催、現在は公益財団法人図書館振興財団主催)の目的は次の通りだ。「図書館を使った調べる学習は、知的好奇心、情報リテラシー、読解力、思考力、言語力が磨かれる学びです。学校教育や生涯学習の場として、ますます多くの方が図書館を活用することによって生きる力を身につけ、それにより図書館が振興することを願いコンクールを行っています」(図書館振興財団HPより引用)。私が所属する北九州市立八幡図書館では3年前から本格的にこの事業に取り組み、また職員も2年続けて大人の部に応募、受賞した経験を持つ。これらの経験を踏まえて、以下の内容で事例発表を行いたい。
1.「図書館を使った調べる学習コンクール」とは?
・意義とあゆみ
・全国コンクールと地域コンクール
・参加者数、地域コンクール開催自治体数の推移
・調べる学習から得たもの~参加者のインタビューを中心に
2. 調べる学習がもたらす図書館利用への影響
・参加者はどんな図書館をどのように利用したか
第22回図書館を使った調べる学習コンクール 文部科学大臣賞受賞作品『桃太郎は盗人なのか?―「桃太郎」から考える鬼の正体―』の事例
・コンクール後の図書館とのかかわり方について
3. 八幡図書館における3年間の取り組み
・職員研修
・教育委員会、学校への働きかけ
・小学生を対象とした調べる学習講座実施から応募まで
・当館職員による作品制作、「大人の部」応募、受賞までの経緯
・取り組み後の職員、参加者の変化、影響について
14:20-14:50 発表(3)司書教諭課程学生を対象とした著作権学習教材の開発~著作権に感じる漠然とした難しさを言語化するために~
/ 山口大輔(意眞)(広島女学院大学 日本文化学科)
本稿は、筆者が制作した「司書教諭課程学生用の著作権学習教材」を紹介するものである。周知のとおり、5科目しかない司書教諭課程では、「効率的で包括的な著作権教育」が求められる。しかしながら、既存の概説書が説く分量や学習順序では、その実現は難しい。また、図解等を交えて簡潔にまとめられたガイドブック(文化庁著作権課『学校における教育活動と著作権 令和5年度改訂版』など)も存するが、学生を熟考に導くものではないとも感じている。もちろん教材学習以外にも、ロールプレイ演習や専門家を招く講演会等の方法もあるが、予算・時間・場所の制約がない教材学習はやはり魅力的である。
また、学生は漠然とした難しさを著作権に感じてしまい、苦手意識を抱くことが多い点も看過できない。
よって筆者は、上記二つの問題点を克服しうる教材を求め、同法第35条周辺を始点とし、以下3点の特徴を持つ本教材を制作した。
①1コマ(90分)で、できる限り有効な著作権教育が為せるよう、「ケース(例題)理解→第35条周辺→著作権の基礎概念」という通常とは逆の学習順序とした。ただし、著作権保護の側面(「~してはならない」)ばかりが強調されると、「著作権利用への萎縮」が生じかねないため、ポジティブな表現や例示、あるいは著作権のめざす所が伝わるよう留意した。
②受け身型教材(授業者が用意した箇所を学ぶ教材)ではなく、ゲーム性のある主体型教材(複雑な要素を絡めた事例文を用意し、そこに検討が必要な箇所を各自で発見していく教材)とした。
③著作権学習への苦手意識が軽減されるよう、学習者が著作権に感じる漠然とした難しさの正体を言語化できるような教材にした。たとえば、無意識に著作権を侵害してしまう感覚を疑似体験できる問題を設けたり、改正前後の別、あるいは適用する条文の別によって適法か否かが変化する事例を問題文に混ぜたりした。
期待する効果としては、90分枠に収まる著作権教育(①)にて、著作権利用への萎縮を防ぎつつ(①)、退屈感を排除し(②)、著作権学習で分からない部分を明確化させる点(③)などを挙げたい。
なお、発表では、本教材のおおよそも紹介する。また学会誌投稿後は、インターネット上での本教材の全てを自由にご利用いただける形で公開する予定である。ご批判も頂戴することで、よりよい教材の開発へと繋げたい。
14:55-15:25 発表(4)知識共有空間におけるゲーミフィケーションを用いた図書館サービスの検討
/ 坂本俊(聖徳大学文学部文学科図書館情報コース)
近年、日本の図書館において、ゲーム体験を図書館利用活動へとつなげる動きがでてきている。この背景として特に①不読率の高い10代から40代までの幅広い年代の利用者に対して、図書および図書館への関心を喚起することができること、②ゲームへの参加を通した対人コミュニケーション能力の獲得・向上が期待できること、③図書館サービスとして新たな知識獲得活動として捉えることできることなどが考えられる。
これまでも児童サービスの一環として、アニマシオンなどゲーム的な遊びの要素を取り入れた図書館サービスも実施されているが、あくまで読書推進活動の範疇に留まってしまっており、21世紀型の課題解決型図書館に求められる知識の獲得・共有活動には至っていない。
またゲーム市場の変化として、ユーロゲームとしてボードゲーム文化が成熟しており社会に定着しているヨーロッパと違い、日本では花札や双六、トランプなど家庭内での娯楽用途とし販売されているゲーム類が多い傾向にあったが、近年は単なる娯楽としてではなく、社会課題の解決や啓蒙をテーマとし、遊びながら自ずと関連知識が身につくように作られているシリアスゲームと呼ばれるゲーム類も充実してきており、これらを図書館という場において活用することで新たな知識獲得の機会を創出することが考えられる。
このため、本発表では公共図書館の知識共有空間としての機能、サービスについてゲーミフィケーションの要素を取り入れた図書館サービスの視点から分析していくこととする。
15:25-15:40 <休憩>15分
15:40-16:10 発表(5)廃藩置県と図書館の成立:中津市立小幡記念図書館の由来を中心に /
伊東達也(山口大学)
本研究は、近世から近代への転換期に日本各地に設けられた図書館の実例に基づき、近代公共図書館の概念が受容される過程を確認して、図書館観をめぐる合意がいかにして民意の中に醸成されたかを解明することを目的としている。
明治10年代に設立された公立書籍館や20年代以降の地方教育会による図書館が、新知識の摂取や直接的に教育活動に資することを意図するあまり旧時代の文化との断絶を生じる傾向があったのに対し、旧藩領域をサービス対象として設立された図書館においては、藩校蔵書など旧藩の文化遺産が継承されることが多く、そこに新旧文化の融合が生じたとされている。
しかし近代公共図書館の制度と思想を受け入れる底流としては、旧藩蔵書の継承だけにとどまらず、それらを含んだ旧藩の教育政策やその延長上にある明治期以降の旧藩主家による旧藩領に対する支援事業等をも想定すべきであり、そのような政策の継続と進展の背景には、幕末から明治への時代の転換に適応した旧藩士民の「時務」の意識、すなわち、変わりゆく時勢のなかで生き抜いていくために必要な事物についての価値判断が作用していると考えられる が、総じてみればこのような現象は、廃藩置県という政治体制の大きな変化がわが国の近代図書館の成立過程に与えた影響の諸相が、個々の事例に表れたものとみることができる。
そこで本発表では、幕末維新期に豊前中津に設立された洋学校である中津市学校の初代校長小幡篤次郎の遺志により、その遺産を受継いでつくられたといわれる中津図書館(財団法人小幡記念図書館、現中津市立小幡記念図書館)の事例を中心として、同時期に旧藩関係者によって設立された図書館である県社榊神社三百年祭記念高田図書館(現上越市立高田図書館)、市立福井図書館(現福井市立図書館)の事例を参照することにより、このことを確認する。
16:15-16:45 発表(6)公立図書館は個人・団体から問題表現の指摘を受けた所蔵図書をどのように考えて取り扱っているのか
/ 安光裕子、藪本知二
2022年3月に全国の公立図書館(都道府県・市・特別区・町・村立)464館を対象に,指摘の当否は別として個人・団体から差別的表現などの問題表現が含まれているとの指摘があった所蔵図書(以下,「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」という.)についての取扱い,ならびにその「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」の取扱いにあたって考慮する事項およびその事項の重視の程度を明らかにする目的でアンケート調査を実施した.回答館数は241館で、回答率は51.9%であった。
なお,「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」の取扱いとは以下の5項目である.すなわち,①所蔵している「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」が開架されている場合,保存場所を変更するか否か,②所蔵している「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」を除籍廃棄するか否か,③所蔵している「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」の閲覧を認めるか否か,④所蔵している「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」の閲覧を認める場合,「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」であることを口頭または書面で伝えるか否か,⑤「個人・団体から問題表現の指摘を受けた図書」の改訂版を収集するか否か,である.
このたびの発表会では,上記の調査結果の概要とそこから得られる示唆について発表する.
16:50-17:20 発表(7)久留米大学文学部情報社会学科における文献調査教育
/ 玉岡兼治(久留米大学文学部情報社会学科)
久留米大学文学部情報社会学科では、学科所属として図書館司書課程担当教員がいたこと。2021年度後期に学科のカリキュラムとして、新しく4年生に対しての司書課程の教員が担当する授業科目が設定されたこと。その結果、司書課程教員が学科の1年生から4年生までの4か年間すべてに担当する授業が設定されたことになった。これを踏まえ、2022年度から4か年を通しての文献調査教育を実施することとした。
本学科の属する久留米大学文学部では、卒業の要件として、卒業論文の執筆、提出、さらには、論文の口頭試問がある。そのため、この文献調査教育では、4年間というスパンで、図書館の利用法、図書・雑誌・新聞・データベースのそれぞれの特徴を踏まえた上での各資料の扱い、情報の流れ方、検索の方法、研究者倫理に基づく引用の作法等を学科学生全員に指導し、学修したことを元に卒業論文執筆ができる学生の育成を目指すこととした。
久留米大学文学部情報社会学科の文献調査教育は、以下の特徴を持つ。
- 1年次から4年次にわたって継続して指導が行われること。指導担当は1名の司書課程担当教員が全て担当していること。
- この文献調査教育の受講対象学生は学科学生全員が受講する授業であること。
- この文献調査教育は、大学の正規のカリキュラムとして設定、開講されており、卒業所要単位に組み込まれていること。
- 正規の授業のため、シラバス作成がなされ、学生に対し授業の目的概要、到達目標の設定が学生に対し明示され、事後の評価も出すこと。
- 指導内容は学生の実態を踏まえ、学年の到達度を設定し、系統的な指導内容としていること。
今回はその授業展開のうち、23年度前期で実施された1年次の授業についての報告、実践を通じての考察について発表を行うこととしたい。
17:25-17:55 発表(8)ITジャイアントの企業活動が図書館における業務とサービスに投げかける光と影:シャーマン法違反にかかるアメリカ連邦司法省 vs. グーグル訴訟を手がかりとして
/ 山本順一
本学会の福岡支部は、再三再四、インターネットでみんなが利用している検索エンジンや主要なポータルサイト、AIなどを例会の話題にとりあげている。現在の図書館における業務とサービスに関しては、インターネット利用は不可欠であるし、またグーグル検索やグーグルマップなどは利用者案内、レファレンスサービスなどのトゥールとしてはなくてはならないものとなっている。しかるに図書館サービスは、利用者や市民にわけへだてなく、というよりもどちらかといえば相対的にふつうの人たち、恵まれない、社会的に陽のあたらない弱者、法的に、あるいは事実上の差別をいわれなく受けているマイノリティの人たちにこそ向けられるべきものだと、わたしは思う。人的資源からも、資金源からみても、慈善行為やボランティアにゆだねられるべきではない、まぎれもなく公共的主体が行なうべき、法的根拠にもとづく‘優しくなければならない’サービスのはずである。上記の公益的、公共的サービスに頻繁に利用されるグーグルのサービスは「巨人の肩の上に立つ」とはいえ、‘私益’の追及は不可避のITジャイアントである。当該企業の本質は‘デジタル広告業’でそのアクドサは、現在審理がはじまっているアメリカ連邦司法省vs.グーグルの訴訟の訴状にもあらわれている。本発表では、日本のメディアでも紹介されているこの訴訟を手がかりに、個人の利用者のプライバシー侵害や著作権侵害とは別の次元で、デジタル広告市場の独占、反市場競争的行為によって書館業務、サービスに対する影響が懸念される事柄について論ずる。