西日本図書館学会 令和4年度 春季研究発表会 要旨

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14:10-14:40 発表(1)

【オンライン】天文館図書館の開館直後の現状と課題
/ 上釜千佳(鹿児島市立天文館図書館 ライブラリースタッフ)

 鹿児島市立天文館図書館(「天文館図書館」と以後表記)は、鹿児島市千日町の再開発ビル「センテラス天文館」の、4階、5階にある鹿児島市の施設として令和4年4月9日に開館した。鹿児島市は中心市街地である天文館の活性化に繋がる公共空間の在り方について、平成30年度に検討を始め官民が連携して商業施設と一体となった公共空間を創出する」という方針を決定した。鹿児島県立図書館や鹿児島市立図書館とも異なる環境整備、運営を取り入れ「新たな扉を見つけ、扉を開ける図書館」というコンセプトのもと、図書館流通センターが指定管理として「天文館図書館」は鹿児島市立図書館の分館として運営されることになった。幅広い世代の人々が集う場となり、共に学び成長できる拠点として次のような特色がある。①蔵書構成は「くらす」「そだつ」「はたらく」「うみだす」の4つのテーマ別配架で構成②拡大したい利用者層は「子育て世代」「ビジネス層」「若者」が対象③カフェと一体となった空間の創出⑤Wi-Fi環境の充実⑥ユニバーサルデザイン等が挙げられる。

 さて「センテラス天文館」が開館して1ヶ月が経過した。「センテラス天文館」は、15階建ての建物で1階から3階は商業施設として65店舗が入店し、4・5階が天文館図書館、7階から14階までがホテルの複合施設である。天文館図書館では、前述に掲げた特色に付随して若者層・ビジネス層・ファミリー層に向けたジャンル分けの蔵書構成(4万冊)、座席予約システム、ギャラリー展示、会話可能な空間、図書館の空間を活用した企画等も構築中である。果たして鹿児島市の人口の約3割を占めるシニア世代は、デジタル化、セルフ化された図書館システムに上手く適応できているのか。お洒落な図書館は保守的傾向の強い市民に戸惑うことなく受け入れられているのか。利用者層はどのような年代構成比なのか。ユニバーサルデザインは上手く機能できているのか。天文館図書館は鹿児島市中心街に付加価値をもたらし街の活性化に繋がる兆しを見せているのだろうか。全国の先駆的な図書館運営を取り入れた「天文館図書館」は大きな話題を地元に提供している。開館前からライブラリー・スタッフとして携わってきた立場から、天文館図書館の開館直後の現状と、想定していたこととの相違、見えてきた課題の数々について現時点での考察を試みたい。

14:40-15:10 発表(2)

【オンライン】「学校経営と学校図書館」~地域性を取り入れた授業の取組み~
/ 岩下雅子(鹿児島国際大学国際文化学部 特任准教授)

 司書教諭の資格を取得するには「学校経営と学校図書館」「学習指導と学校図書館」「学校図書館メディアの構成」「読書と豊かな人間性」「情報メディアの活用の5科目を履修しなければならない。文科省は「学校経営と学校図書館」のねらいを「学校図書館の教育的意義や経営など全般的事項についての理解を図る」と定め、内容として①学校図書館の理念と教育的意義 学校図書館の発展と課題③教育行政と学校図書館④学校図書館の経営(人、施設、予算、評価等)⑤司書教諭の役割と校内の協力体制、研修⑥学校図書館メディアの選択と管理、提供⑦学校図書館活動⑧図書館の相互協力とネットワークの8項目を挙げている。「学校経営と学校図書館」は放送大学をはじめ数社がテキストを出版している。司書教諭資格取得を希望する学生の大半は鹿児島県の教員を目指している。当然鹿児島県における図書館行政や読書運動、学校図書館運営等について把握しておくべきだと考える。本学では文科省のねらいと内容を踏まえて 鹿児島の地域性も積極的に組み込んだ学校図書館運営についての授業を構築している。授業として①体系的学びと実務的学びの両立を図る②鹿児島県の学校図書館行政と学校図書館の現状を理解する。この2点を盛り込んでいる。具体的には①鹿児島県の読書運動(椋鳩十が昭和35年に提唱した「母と子の20分間読書運動」)②第4次鹿児島県子ども読書活動推進計画③小中高校の図書館運営事例(学校司書を特別講師として招聘)をシラバスに盛り込んでいる。司書教諭講習規定は平成11年4月に施行されている。23年前と現在では社会の急速な情報化や、社会が学校に求めるものも大きく変化している。鹿児島県の学校図書館行政、読書運動、また地域や学校の特色を反映した 学校図書館と学校運営 を学ぶことで、学生たちはどのような学びを培い、司書教諭として学校図書館に対してどのような意識の変化がみられたのか、またどのような課題が挙げられるのかを考察する。

15:10-15:40 発表(3)

【オンライン】国立大学法人等職員統一採用試験「事務系(図書)」の第二次試験(図書系専門試験)
/ 大庭一郎(筑波大学図書館情報メディア系),荒川佑蘭(株式会社広芸インテック)

 2004(平成16)年の国立大学法人化にともなって、国立大学の職員採用試験が従来の国家公務員試験の適用外となったため、人事院が実施する国家公務員採用Ⅱ種試験「図書館学」が廃止された。その結果、国立大学法人等職員統一採用試験が開始され、図書館職員の採用は、「事務系」の図書という区分で行われるようになった。この試験は、全国7地区(北海道、東北、関東甲信越、東海・北陸、近畿、中国・四国、九州)の各実施委員会が行い、採用も地区ごとに行われている。国立大学法人等職員統一採用試験「事務系(図書)」の試験方法は、第一次試験で教養試験(多肢選択式)を行い,第二次試験で図書系専門試験(筆記試験)と面接考査等が実施されている。国立大学の法人化から17年経過し、国立大学法人等職員統一採用試験「事務系(図書)」は、安定運用の段階に入ってきた。この間、 国立大学法人等職員統一採用試験を紹介した文献は時々発表されてきたが、「事務系(図書)」の専門試験(筆記試験)を詳細に分析した研究は、十分に行なわれていない。

 そこで、本研究では、国立大学法人等職員統一採用試験「事務系(図書)」に関する基礎研究の一環として、国立大学法人等職員統一採用試験「事務系(図書)」の試験問題(筆記試験)を網羅的に収集し、採用時に国立大学法人の図書館職員に求められた専門的知識について分析・考察した。

15:55-16:25 発表(4)

【対面】図書館利用指導に関する実態調査報告(私立大学図書館協会 西地区部会 中国・四国地区協議会加盟大学図書館を対象 2020年11月)
/ 玉岡兼治(久留米大学 講師)

 大学図書館での利用指導については、大学図書館研究会等で、発表館の実践報告は行われる。しかし、一定地域を網羅した調査というのは、近年実施されていない。実際は各大学図書館だけで試行錯誤を行いながら実施しているのが実情である。本発表は2020年11月に私立大学図書館協会 西地区部会 中国四国地区協議会加盟図書館 44館に依頼をし、35館から回答を得た。調査は実施時期、指導者、といった基本的な調査事項もあったが、特にその実施内容として、大学や設置学部・学科のカリキュラムポリシー、ディプロマポリシーとの関連性、学生の自己評価等の実施内容についても問うた。そこから大学図書館の利用指導の課題を考察し、今後の利用指導の課題を考察する一助とするものである。

16:25-16:55 発表(5)

【対面】『図書館総覧』(昭和13年版)の成立と特徴
/ 仲村拓真(山口県立大学 講師)

 本発表の目的は,『図書館総覧』(昭和13年版)が刊行された経緯について整理したうえで,収録された内容について検討し,その特徴を明らかにすることである。

 『図書館総覧』は,青年図書館員聯盟の10周年記念として,天野敬太郎と森清が編纂し,1938年に刊行された資料である。その内容は,大きく分けて,次の7つから成っている。すなわち,①総説篇,②一覧・統計篇,③法規篇,④記録・資料篇,⑤職員・団体篇,⑥文献篇,⑦参考・便覧篇である。

 『図書館総覧』について,図書館に関する書誌や職員録として有用であると紹介するなど,若干の言及がある文献は散見されるが,『図書館総覧』自体を詳細に検討した研究は行われてこなかった。しかし,『図書館総覧』は,他の資料をまとめただけでなく,編者による図書館調査に基づいているという点において,昭和前期の図書館の概況を示す史料となりうるものである。『図書館総覧』について分析を行うことは,『図書館総覧』の史料としての活用可能性を示すことはもちろんであるが,近代日本の図書館界において,このような調査の実施や資料の刊行がどのような意味をもったか,また,影響を与えたかを検討することにつながりうるといえる。

 本発表では,次の2つの結果について,報告する。第一に,青年図書館員聯盟の機関誌であった『図書館研究』や『青年図書館員聯盟会報』における記録や,編者を含む図書館関係者による『図書館総覧』への言及を主な手がかりとして,『図書館総覧』が刊行された意図や,刊行までの過程を整理する。第二に,編者による図書館調査の結果に基づく箇所を中心に,『図書館総覧』の記述を精査したうえで,同様の内容を収録した他の刊行物との比較を行い,『図書館総覧』の特徴を考察する。

16:55-17:25 発表(6)

【対面】図書館司書課程学生の地域連携活動におけるプロジェクト学習
/ 矢崎美香(九州女子大学 准教授)

 司書資格を取得する学生の中には,本は好きだが実際の図書館経験は少ない,人とのコミュニケーションが苦手と言うような課題を抱えている学生は多い。しかし,図書館司書課程の科目では,このような個々の課題を解決するような実践的な学習環境を学内で設定することは難しい。そこで,「情報サービス演習」科目での学習活動を通して,学生があげた課題を解決するために地域の書店と連携してプロジェクトを行うこととした。

 本研究でのプロジェクトは,地域書店の3店舗において「情報サービス演習」で行った展示活動を行うことである。このプロジェクトには,これまで授業内で傾聴するにとどまっている企画立案,交渉,都度の作業報告書作成など実務に含む内容を課題として設定し,取り組むようにした。また,このプロジェクトの学びを図書館総合展のポスターセッション及びフォーラムで発表する流れを作ることで,学生が自らの活動の振り返りを行うように導いた。

 この授業外の学習に自発的に参加した14名の学生は,約8か月間のプロジェクトを通して,これまでの学びの中では気づかずにいた知識を応用する力やスキルを必要なところで使うことができるなどの成長があった。この成長は,学生が作成した「振り返り」を検証することで,学生個人が抱える課題がどのように解決して成長につがったかが分かるとともに学生全体が抱える課題が明らかとなり,今後の学習の改善につながると考える。

17:25-17:55 発表(7)

【対面】電子書籍(デジタル・コンテンツ)を図書館が紙の本と同じように貸出すための理屈 デジタル・ファーストセール・ドクトリンの理論構成の検討
/ 山本順一

 日本では、大学図書館も、公共図書館も、学校図書館も、まともな先進国家としての生涯学習振興に見合った財源も、専門的知識とスキルを備えた職員も充てられてはいない。しかし、同様に苦しい財政状況にありながらも、アメリカのほぼすべての図書館では電子書籍の‘貸出サービス’が実施されている。ところが、中身の作品はまったく同一でも、著作権法上の取扱いはまったく異なるものとされている。伝統的な紙の書籍は、モノ(有体物)として物理的実体があり、図書館の所有物である物理的な本が閲覧、貸出の対象とされる。図書館が所蔵資料として適法に受け入れられれば、著作権は消尽し、図書館は自由に、無償で利用者に貸出すことができる。そこに著作者や出版社が容喙する余地は全くない。一方、同一作品が電子書籍(ファイル)として市場に流通する場合には、その実体は無体のデジタルファイルで、そのファイルは(電子書籍)出版社もしくはOverDrive社のようなプラットフォーム事業者のサーバにあげられ、‘電子書籍’を購入した消費者はサーバ上の特定の指定ファイルに対して自動公衆送受信がライセンス(使用許諾)契約によって可能になる。一般の消費者はプライベートな閉じられた閲覧、利用にとどまるが、図書館の場合には不特定多数の利用者に対してその電子ファイルの利用が開かれなくては意味がない。

 図書館が現在の財政的状況の中で歴史的に果たして来た公共的・公益的機能を十全に発揮するためには、資料の保存管理機能とあわせて、伝統的な紙媒体資料に当然の理屈として許容されてきたファーストセール・ドクトリンをデジタルネットワークの時代においてもなんらかの形で維持できることが求められている。この‘デジタル・ファーストセール・ドクトリン’については、デジタル・ミレニアム著作権法が1998年に制定される頃から議論があり、すでに多くの研究成果が蓄積されている。このなぜか日本ではあまりとりあげられたことのないテーマについて、今回の研究発表では正面から取り上げ、デジタル・ファーストセール・ドクトリン理論の構造ついて分かりやすく解析、説明してみたい。