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14:30-15:00 発表(1)

司書のコミュニケーション能力を育成する授業実践

長岡絵里佳(鳥取短期大学国際文化交流学科)

発表要綱

 鳥取短期大学司書課程では、学生たちが司書として必要なコミュニケーション能力を身につけるため、ディスカッションや発表、本の紹介などを取り入れた授業を展開している。しかし、「図書館実習」を開講していないため、実務経験を積む機会が乏しいことが課題であった。そこで、2年次前期の科目「図書館サービス特論」において、平成26年度より、ロールプレイを取り入れたレファレンスサービス演習を実施し、少しでも実務に関わるコミュニケーション能力を伸ばそうと試みている。

 本稿では、これまでの授業実践をふりかえり、成果と課題を検証したい。まず、鳥取短期大学司書課程の特徴と受講生の意識について整理し、「図書館サービス特論」にロールプレイを取り入れた意図と授業内容・方法を述べる。ロールプレイを取り入れた年度と受講生が多い年度は本学の付属図書館で実施し、平成27年度から平成29年度までは倉吉市立図書館の協力を得て学外で実施した。学内と学外の意識の違い、大学図書館と公共図書館の蔵書や施設設備の違いだけでなく、一般利用者や現役の司書の存在を身近に感じられるか否かも学生たちに影響を与えたように思われる。学生たちが学んだ成果については、学生の提出物や授業の振り返りのコメント、授業評価アンケート、教員の観察などをもとに考察する。

 「図書館サービス特論」の授業内容については、とくに1年次後期の「情報サービス論」と「情報サービス演習」との連携を検討してきた。科目間連携の試みもふまえ、コミュニケーション能力の育成を図る司書課程の教育について、今後の課題を挙げる。

15:00-15:30 発表(2)

公立図書館は「有害図書類」をどのように考えて取り扱っているのか

安光裕子(山口県立大学国際文化学部)
藪本知二(山口県立大学社会福祉学部)

発表要綱

 公立図書館は,青少年健全育成条例(以下「条例」)に基づいて指定された「有害図書類」をどのように取り扱えばよいのだろうか.

 この問いの解を導き出すために,これまで本研究者は,愛知県(2006年)や山口県(2013年)などの公立図書館を対象に調査をし,その調査結果を分析・検討してきた.2019年(令和元年)には,調査対象館を全国に広げ,都道府県立および市立の中央館852館を対象にアンケート調査を行い,この調査結果に関して分析・検討を行ってきた.

 まず,条例による有害図書類規制制度は,公立図書館が行う資料の収集および提供にどのような影響を及ぼしているかを上記アンケート調査の結果に基づいて明らかにした。

 次に,各公立図書館が自館の選書基準に基づいて所蔵している図書類を,条例に基づく有害指定を理由に,将来にわたり青少年はもとより大人に対しても提供する機会を閉ざすことになる除籍・廃棄に焦点を合わせて検討を行った。

 さらに,有害指定を受けた図書類に対する公立図書館の態度に焦点を合わせて検討を行った。すなわち,「公立図書館は,条例に基づき指定を受けた『有害図書類』をどのように取り扱ったらよいか」との問いに対する自由記述による回答について,テキストマイニングの手法を用いて分析し,記述内容にどのような特徴等があるかを検討した。

 このたびの発表では,そもそも公立図書館が「有害図書類」を取り扱うにあたっては,どのような考えに基づいて行っているのかを明らかにしたい.どのような考えにより公立図書館の「有害図書類」の取扱いを行うのかは,調査の各質問項目の回答の関連性などに焦点を合わせた分析・検討により浮かび上がらせる.

15:30-16:00 発表(3)

明治憲法期出版統制下の久留米図書館 -久留米市立中央図書館所蔵「久留米図書館事務文書資料」調査報告-

下川和彦(久留米大学(非))

発表要綱 +資料

久留米市の図書館は、120年の歴史を持つ。
 1900(明33年)福岡県教育会久留米支会附属久留米図書館として創設。1938(昭13)年市に移管され久留米市立久留米図書館となる。戦後、図書館法施行後の1951(昭26)年久留米市図書館となり、1978年(昭53)年、新たな条例により久留米市民図書館、さらに2005(平17)年久留米市合併に伴い久留米市立図書館として現在に至っている。従って「久留米図書館」は、創設から昭和戦時下までの久留米市の図書館名である。

 現久留米市立中央図書館書庫に、久留米図書館時代の未整理事務文書資料が保管されている。1953(昭28)年筑後川流域を襲った豪雨により久留米市全域は大きな被害を受けた。今に残る図書館資料はその難を逃れたものであるが、未整理資料の多くは何らかの被害を受け、保存状態は必ずしも良くない。資料として多くの欠落なども想定される。

 2020(令2)年夏より、段ボール2箱に納められた77点の「久留米図書館事務文書資料」調査の機会を得た。
 今回の報告は、このうち明治から大正、昭和戦時下までの出版統制に関する資料についての調査報告である。出版統制という時代的制約が、地方都市にどのように及び、図書館はどう対応したのか、残された資料を通して考えてみたい。

16:00-16:30 発表(4)

「参考調査図書館」としての奄美分館の役割:島尾敏雄分館長の業務に着目して

工藤邦彦(別府大学文学部司書課程)

発表要綱

 本発表では,戦後の地方における県立図書館の実践を掘り起こすことを目的に,鹿児島県立図書館奄美分館が遂行した参考調査業務について,島尾敏雄分館長の就任期(昭和33(1958)年4月~50(1975)年4月)を中心に考察する.

 筆者は,平成30(2018)年11月,鹿児島県立奄美図書館に於いて開催された島尾敏雄記念室講演会で『図書館司書としての島尾敏雄 本を届け,資料を集めた17年』と題し,作家以外の図書館長(職名は分館長)の側面から奄美の図書館運営に貢献した島尾の足跡を語った.その後は新型コロナウイルス感染症感染拡大で度々の緊急事態宣言等の発出によって家庭や職場等の生活拠点以外への移動の自由もままならない“新しい日常”に直面し奄美への渡航が出来ず資料渉猟がままならない状況に陥っていた.しかし,昨年に奄美分館で当時の島尾と苦楽を共にした当田真延分館長補佐(故人)のご子息から『県立図書館奄美分館・奄美日米文化会館 参考質問記録綴』(記録時期:昭和33年10月~39年2月,以下,『記録綴』と記す)を拝借することが出来た.これまで各種文献を通じて奄美分館の運営状況を把握してきたなかで,発表者の寡聞の故かも知れないが,島尾が遺した『日記』や『出張業務ノート』を除き一次資料を見かけることが皆無であった.今回入手した『記録綴』の記載内容をてがかりに奄美分館における参考調査業務の一端を知ることが期待される.

 本発表では,上掲の講演内容記録(奄美図書館刊『島の根』平成30年度55号)での既述部分についての重複を避け,その後新たに確認出来た『記録綴』からの事象および『日記』,『出張業務ノート』の記載内容や地元新聞の記事をもとに奄美分館の「参考調査図書館」としての役割を明らかにする.

 具体的には,昭和30年代における参考調査業務,利用者の調査研究の一助となった書誌・目録編成,分館に事務局を置いた奄美郷土研究会の活動および職務上で交流のあった奄美群島の知識人との関わりといった視点から分析を試みる.

16:30-16:45  <休憩>

16:45-17:15 発表(5)

九州・沖縄における新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の活用事例から見えてくるもの(仮)

永利和則(福岡女子短期大学)

発表要綱

 2020年に発症した新型コロナウイルス感染症により、人々の生活様式は大きく変更することを余儀なくされた。現在でも多くの公立図書館が、利用に際して3密を避けたり、来館や貸出を制限したりしながら、図書館サービスの提供に努めている。

 国も新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を創設し、各自治体に新型コロナウイルス感染症防止対策を行うように求め、自治体もこの交付金を使ってさまざまな事業を実施し、新型コロナ後の「新しい生活様式」の実現を模索している。

 今回の発表では、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の活用事例にあげられた109事例の中から公立図書館が該当する3事例がどのようなものかを解説する。さらに、それらの3事例を使って、九州・沖縄地区の各自治体の取り組んだ実施事例を調査・分析し、考察することを目的とする。実施事例の調査は、令和2年度の1次補正予算から3次補正予算の申請内容を基に行うこととしたが、3次補正予算の申請内容は公表されておらず確認できていない。

 1次補正予算と2次補正予算の申請内容の調査からは、159自治体の実施事例が確認でき、その内容は図書購入等(児童、一般、電子書籍、デジタル化)、システム整備(コンピュータ化、電子図書、Wi-Fi)、移動図書館車や配本車の購入、図書カードの配布、図書館施設改修、図書消毒機や空気清浄機の設置、図書館や学校図書館職員の人件費、被災図書館代用図書館と多岐にわたっていることがわかった。

 この交付金が直営も指定管理者も対象になっていること、電子図書館が急増したことなど個別の関連する課題についても言及していく。

17:15-17:45 発表(6)

図書館の名称と知的財産権について考える

山本順一(放送大学)

発表要綱

 現在、わたしはある雑誌の連載記事の執筆を続けていて、そこでアメリカのメリーランド州ボルチモアにある、アメリカで最も古い公共図書館のひとつ、Enoch Pratt Free Library(1886年創設)についてふれることがありました。同図書館の名称の一部を構成する人名を名乗ったEnoch Pratt(1808‐1896)は、19世紀ボルチモアで大活躍をしたビジネスマンにして慈善家ですが、彼がボルチモア市に100万ドル以上の寄付をして、人種・貧富にかかわらず、すべての市民が無償で利用できる貸出図書館ができたのです。アメリカの図書館の世界では、‘カーネギー図書館’と呼ばれる一群の図書館があります。ご承知の通り、地元コミュニティの要望を受けてAndrew Carnegie (1835 – 1919)の寄付によってこしらえられた図書館です。ニューヨークには、OCLCが権利を保有するデューイ十進分類法(の商標)を利用した‘ライブラリー・ホテル’があることをご存じの方は多いと思います。

アメリカをはじめ、諸外国では、ロナルド・レーガン空港やジョン・F・ケネディ・スクール・オブ・ガバメント、ポンセ・デ・レオン通りのように、公共施設などに歴史上著名な人物の名前を冠したものは普通です。Levi’s Stadiumや京セラドーム大阪など、ネーミングライツを設定し、当該施設の運営費の一部に充当される宣伝広告費を負担するとの契約を結んだ企業の商号やその企業の製品名をつけた施設もあります。

 ネーミングライツ契約は日本の地方公共団体では流行のようになっており、公立図書館の世界でも‘辰巳商会中央図書館’(ネーミングライツは年間200万円、2年契約)が現れました。「辰巳商会中央図書館」と「住友吉左衛門図書館」(架空の名称)(1904年竣工の重要文化財、大阪府立中之島図書館は住友家からの寄贈)、このふたつの図書館の名前がどのように庶民の心に響くのか、その相違などを含め、図書館の名前について一緒に考えてみませんか。

5/19 封書でご案内しておりました発表うち、1件の発表辞退(発表6)の申入れがあったため、(発表7)を繰り上げて実施します。したがって、全部で6件の発表となります。

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