西日本図書館学会 平成30年度 秋季研究発表会

発表要旨

13:40

「読書活動としてのアニマシオンの可能性」

/種村 エイ子(かごしまアニマシオン倶楽部代表)

鹿児島は読書運動発祥の地である。

1947年鹿児島県立図書館長になった椋鳩十は、「その日の生活にも困っている5人家族がいるとして、その家族のために、食料を運びこむのがよいか、5人が生活できるだけの収入の道を考える方がいいか、5人家族の、基本的な生活を考える方を選んだ」(『図書館雑誌』1963年9月号)として、「農業文庫」(1952年)や「母と子の20分間読書運動」(1960年)など、県民の自立のための図書館活動を目指した。

農業文庫の方は、農業人口の減少により、1960年代後半には消滅してしまったが、子どもの読書運動は、子どもが読むのに母親が耳を傾ける形から、親が子どもに読み聞かせるスタイルの「親子読書」となり全国に広がっていった。

しかし、読み聞かせは、乳幼児から小学校低学年の幼い子どもたちには、たいへん有効であるが、高学年や中高校生には、読書を苦手とする子どもたちが増加している。

2018年4月に発表された国の第4次(2018~2022年度)「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」には、

①中学生までの読書習慣の形成が不十分

②高校生になり読書の関心度合いの低下

③スマートフォンの普及等による子どもの読書環境への影響の可能性

が指摘されている。

対策のポイントのひとつが「友人同士で行う活動等を通じ、読書への関心を高める方法」であり、具体的には「読書会、図書委員、子ども司書、ブックトーク、書評合戦(ビブリオバトル)」と並んで、アニマシオンが提案されている。

アニマシオンとは、ラテン語のアニマ(anima)=魂、生命に発し、すべての人間が持って生まれたその命・魂を生き生きと躍動させること、生命力・活力を吹き込み心身を活性化させることを意味する言葉である。1960年代から主に南欧で、子どもたちと活動を一緒に楽しみながら、イキイキ、ハラハラ、ドキドキする心身の活性化を生み出し、自立性と生きる活力を引き出すために、実施されてきた。特に読書のアニマシオンは、読書の苦手な子どもたちも含めて、本の楽しさを伝える図書館活動に欠かせないものとなっている。

日本に読書のアニマシオンが伝わって20年、鹿児島で研究実践を始めて15年になる。「読み聞かせ」に比べて、まだ十分に浸透しているとはいえないが、読書離れがすすむ世代の子どもたちへむけて、今後の読書活動の展開に活用できる可能性を探ってみたい。

 

14:10

試論:図書館の市場創造

/山本 順一(桃山学院大学)

最近の図書館情報学の世界においては、経営学やマーケティング理論との接点を深めつつある。アメリカのライブラリースクールにおいてもマネジメントスクール出身の若手研究者を採用したり、マネジメントスクールと共同して経営学専攻の教員を雇い授業を担当させたりしている。国際図書館連盟が発行している『IFLA公共図書館サービスガイドライン』も初版(2001)には「第6章 公共図書館の管理・運営」に含まれていた‘公共図書館のマーケティング’を全面改訂第2版(2010)では独立の第7章としている。

この国の図書館情報学教育のありようを定める図書館法施行規則にあげられたカリキュラム表では、「図書館制度・経営論」の‘ねらい’に「図書館経営の考え方」「サービス計画」があげられ、‘内容’として「⑸公共機関・施設の経営方法」「マーケティング」という語句が見られる。この要綱にしたがった司書課程の各種市販テキストには素人が 通り一遍の記述を書くにとどまっている。CiNiiで‘図書館’‘マーケティング’‘市場化・市場創造’などで検索をしても、ノイズが並ぶだけで図書館サービスとマーケティングについての深い考察は見られない。

この研究発表では、アメリカの関係する文献、ウェブページ等を探索・吟味し、公的資金が窮屈ななかで、従来のアウトバウンドマーケティングからインバウンドマーケティングへ、デジタルネットワーク社会の図書館にふさわしいメディアストラテジーを織り込み、市場対応型マーケティングを超えたフィードバックループを備えた市場創造型マーケティングの方向性模索について、試論を提示したい。この国の歪んだ苔むすビジネスモデルにしがみつくのは大きく間違っており、‘市場は新たな機会を求めて進化し、拡大する’べきものであるとの‘資本主義の摂理’の一端を短時間の発表の中で示せれば幸い、と思っています。

 

14:40

M. ハッチンス理論についての考察

/前川 和子(桃山学院大学大学院)

原書は1955年、翻訳が1979年に刊行されたローススティーンの著書(学位論文)のなかで、原書のタイトルThe Development of the Concept of Reference Service in American Libraries, 1850-1900にあるように、現在のレファレンスサービスにつながる「レファレンス・ワークは研究と同じように、とらえにくく、さまざまに定義できる一連の過程であり、事実さまざまな定義が与えられてきた。」注)と記し時系列に定義を並べ、J. I. ワイアーの次にM. ハッチンスの定義を紹介している。レファレンスサービスの歴史をみる時、19世紀から20世紀前半において理論化を図った人々の中で、彼女は大きな位置を占めていると思われる。彼女の代表的な著書は、Introduction to Reference Work (Chicago: American Library Association, 1944)であるが、その発表された時期のゆえか、わが国では彼女の当時はレファレンス・ワークと呼ばれていた理論の検討が充分であるとはいえない。しかし、第2次世界大戦直後に慶應義塾大学文学部のなかに開設された日本図書館学校(JLS)で教えられたレファレンス教育には、F.チェニーを介してM. ハッチンスの著作が大きく取り上げられ、その理論が日本に持ち込まれたと考える。JLSの校長R. ギトラーにより最新のアメリカ図書館学の知識をもつ教員たちが招聘されたなかでレファレンスを担当したのはF. チェニーで、彼女はM. ハッチンスの教え子であった。

この発表では、M. ハッチンスの理論に取組み、アメリカでの評価を確認しつつ、日本では十分には学界でも実務でも定着を見なかった彼女の理論が、JLSでの図書館学教育にどのように取り入れられたかを考察したいと考える。

注)サミュエル・ローススティーン、長沢雅男監訳『レファレンス・サービスの発達』日本図書館協会, 1979, p.12.

 

15:10

新・学習指導要領「生きる力」を育むのは難しくない〜司書教諭教育で得た理論と実践の成果〜

/宍道 勉(鳥取大学地域学部・非常勤)

文科省の「新・学習指導要領(以下「要領」)」は,現行「要領」の考え方の一つである「生きる力」の育成に加え,知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」の実施を宣する。

しかし「主体的・対話的」の具体的指針が捉えにくいのか,指導段階では未だ模索のさなかだろう。なぜなら教師はこれまで児童生徒を「教科書で教える」のが「正しい」姿勢にある。ところが「新・要領」は児童生徒が主体的で同時に対話的に「学ぶ」姿勢へと導くよう求める。これはどう見ても両者に「矛盾」が生じかねない「相容れない」ように思える。このまま教師が教える構えを崩さなければ,児童生徒は「学ぶ」姿勢より受け身のままで,ますます「主体性」から遠のいていきそうである。

なぜ「相容れない」か?答えは教師になる過程で,彼らは絶えず教育「方法」を「教えられる」体質が染みついているからである。そこへ「主体的学びを教えるべき」と言われても,当人がそれを「教える方法」を「教えられた」覚えはないし,ましてや自身が「主体的学び」の経験がないとくれば戸惑って当然である。

そこで論者はこの「主体的」の意味する課題解決の「方法」論に取り組んだ。研究対象が「司書教諭教育」の場とし,講義は必ず大学「図書館」と付属学校「図書館」を利用する。受講者(教師)と共に実効性を実感できるからである。

その実践が以下の演技で学校図書館を舞台とする授業である。本来は指導する「演出家」の「教師」がこの演劇では「従」の「児童生徒」役を演ずる。

1)児童生徒は(いずれの科目にも)常に「国語辞典」を携行する。

2)児童生徒は5,6名のグループに分かれる。

3)「ことば」に出会い,カードを作成する。

4)出会った「ことば」について,先ず自分で「考えた」意味をカードに記録する。

5)国語辞典の見出し語で「ことば」の「語義」を「参照」しカードに記載する。

6)考えたこと,参照した「ことば」の意味から連想(インスピレーション)を描く。

7)インスピレーション(カード)を持って図書館内で「本」を選ぶ。

8)選んだ本を読む

8)自分の「本」をお互いに紹介する。

つまり「新・要領」が求める「主体的学び」は,これら全ての過程を指す,と同時に「対話的学び」はこの活動がグループで行われることによって実現している。

実践した教師は「はじめから終わりまで」児童生徒と「全て」同じ手順で行動し終えたとき,恐らく「生きる力」の学びを理解し,それを育む方法を知ったに違いない。

事後レポートに『この「生きる力」を学ぶ授業は難しくない』,だから必ず二学期の授業で試みるとあった。

実施されたかどうかそれが問題だ。

 

15:40   休憩

 

16:00

近代日本における公共図書館員を対象とした研修の特徴

/仲村 拓真(青山学院大学大学院 教育人間科学研究科 博士後期課程)

本研究の目的は,近代日本における公共図書館員を対象とした研修の実施状況を整理し,その特徴及び変化を明らかにすることである。

図書館員の研修は,時代を問わず,図書館界の関心事であるといえる。近代においても,研修が実施されていたことは判明しているが,いくつかの人物研究や事例研究を除けば,その実態や特徴が明らかになっているとは言いがたい。網羅的に整理した論考は,竹内悊の論文が唯一であるといえる。ただし,竹内の論文は,図書館学教育の概略を捉えるものであり,史料も『図書館雑誌』に限られていた。

研修を分析することは,どのような技能が求められていたかを検討するだけでなく,どのような人物や図書館が指導的立場にあったかを確認することにもなる。そこで,本研究は,竹内の論文を基盤としつつ,その他の史料も活用し,開催状況や講師,内容に着目して,分析を試みた。

研究の方法は,文献研究である。近代日本に流通していた図書館関係雑誌,図書館関係団体の会報誌に掲載されていた研修に関する情報を整理した。分析の時期区分は,竹内の論文に基づき,①第1期(1892-1920),②第2期(1921-1932),③第3期(1933-1945),とした。

結果として,170件の講習について情報を得た。竹内の論文における指摘はいずれも認められるものであったが,『図書館雑誌』では把握できない講習も存在したことが分かった。

開催数については,年々増加傾向にあった。この背景には,地方図書館協会の結成や,中央図書館制度の影響があると考えられる。開催月は,全時期において,8月に集中していたことが確認できた。

内容については,第2期,第3期において,およそ4割の研修で,町村などの小規模な図書館について取り上げていた。また,社会教育及び読書指導に関する講義を含む研修が増加傾向にあった。

講師については,いずれの時期においても,県立図書館関係者が担当している講習が最も多かったことから,中央図書館制度に関係なく,県立図書館が指導的立場にあったことが分かった。また,五大都市立図書館関係者も次いで多く,五大都市立図書館も,指導的立場が期待されていたことが判明した。図書館関係者のうち,最も多い肩書は館長であり,館長が指導者として位置づいている実態が判明した。しかし,社会教育に限っては,館長はほとんど見られず,文部省職員か,自治体の社会教育主事が講師となっていた。

 

16:30

学校図書館利活用増進手法の模索:生徒の生活動線と学校図書館の位置の空間的関係に着目して

/橋本 あかり(桃山学院大学 経営研究科 修士課程)

文部科学省が示している「学校図書館ガイドライン」の中の学校図書館の目的・機能の項目では、「学校図書館には、学校図書館法に規定されているように、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であり、図書館資料を収集・整理・保存し、児童生徒及び教職員の利用に供することによって、学校の教育課程の展開に寄与するとともに児童生徒の健全な教養を育成することも目的としている。」と記述がある。さらに「学校図書館ガイドライン」では、学校図書館には、児童生徒の読書活動や読書指導の場とする「読書センター」、児童生徒や教職員の情報ニーズに対応したり、生徒の情報の収集・選択・活用能力を育成する場である「情報センター」、児童生徒の学習活動を支援したり、授業内容を豊かにし、理解を深める場である「学習センター」この三つの機能を学校図書館は、児童生徒および教職員に提供しなければならないとされている1

しかし、本当に全国の学校図書館は、学校教育活動において空間的にも重要な場所として位置づけられているのか。学校教育活動において欠くことのできない基礎的な設備とされているのであれば、学校の中で児童生徒が足を運びやすい、また、授業等で利活用しやすい場所、つまり児童生徒にとっての生活動線上に図書室を置かなければならないのではないかと考えた。

2018年4月から大阪府堺市にある香ヶ丘リベルテ高等学校の図書室へ週に一回、参与観察に赴き、生徒たちにどのように図書室が利用されているのか等を実際に観察してきた。ケーススタディの対象とした香ヶ丘リベルテ高等学校の図書室は、お世辞にも生徒にとってアクセスしやすいといえる場所にはない。そもそも生徒たちの生活動線上にないため、休み時間気軽に足を運べるような位置に図書室が存在しない。また、授業と図書室の連携にも乏しい。

特色ある学校経営の観点からしても、図書室にアクセスしやすく、図書館資料と設備が利活用されたほうが、生徒の学習が間違いなく深まる。この研究発表では、各学年から一クラスずつ選び、その時間割から生徒たちの1日の学校内での生活動線を明らかにし、そこから、香ヶ丘リベルテ高等学校において、図書室はどの場所にあればすべての生徒にとって利活用しやすいといえるのか、空間設計上の望ましい位置について考察を加え、その過程から一定の準則の析出に努めることにしたい。

1文部科学省「学校図書館ガイドライン」<http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380599.htm>

 

17:00

国立大学の図書館職員採用試験:人事院による国家公務員採用試験時代の基本文献

/大庭 一郎(筑波大学 図書館情報メディア系)

日本の国立大学図書館職員の採用試験には、昭和39(1964)年から平成15(2003)年まで、人事院が作成した採用試験問題(筆記試験)が活用されていた。この採用試験問題は、長年公開されておらず、採用試験問題の問題作成委員には守秘義務が課されているため、人事院の採用試験問題を分析・考察することは不可能であった。しかし、情報公開法の施行を受けて、人事院が平成14(2002)年度から採用試験問題を開示対象としたため、国家公務員採用Ⅱ種試験「図書館学」の平成9(1997)年度から平成15(2003)年度までの7年分の採用試験問題は、全文を入手できるようになった。従来、人事院の採用試験関連情報を入手する唯一の手段は、『人事院月報』(昭和25(1950)年創刊の月刊誌)であると考えられてきた。しかしながら、昭和23(1948)年の人事院設立から70年が経過し、近年、日本の古書市場に、人事院の採用試験関連の灰色文献が出品されるようになってきた。

そこで、本研究では、国立大学図書館職員の採用・選考に関する基礎研究として、『人事院月報』の他に、人事院による国立大学の図書館職員採用試験に関する情報を記した基本文献(図書、雑誌、統計資料、等)にどのようなものがあるかを整理・検討し、基本文献の全体像について考察した。

 

17:30

鹿児島県 学校図書館運営の変遷(昭和20年代から平成20年代)~鹿児島県学校図書館大会事例発表を通して~

/岩下 雅子(志學館大学 人間関係学部)

鹿児島県の小学校・中学校・高等学校における昭和20年代から平成23年度にかけての学校図書館の変遷を通して、学校図書館がどのようなことを研究主題として取り組んできたのか、鹿児島県学校図書館大会における年代ごとの事例発表等を参考に考察する。昭和55年度から平成23年度にかけて毎年発行されている鹿児島県学校図書館協議会の研究誌「学校図書館」(のちに「がっこう図書館」と改名)を主な参考資料とする。昭和20年代の学校図書館は何を課題としてスタートを切ったのか、また鹿児島大学教育学部代用付属伊敷中学校の研究報告書「自発学習のあゆみ」(昭和27年発行)にみる学校図書館に対する教員の取組み等についても当時の学校図書館への抱負を考察する。昭和30年代は読書指導の充実を目指して鹿児島県下の学校図書館での取組みがなされた時期であり、鹿児島で開催された昭和32年の第6回九州地区学校図書館研究大会は、参加者二千名以上を迎えている。昭和40年代は第15回全国学校図書館研究大会が鹿児島で開催され、参加者は三千名を超え、鹿児島の学校図書館の発展期とされている。盛り上がりを見せた学校図書館だが、昭和51年には鹿児島県学校図書館協議会の事務局長の専従が解かれ、その影響か、昭和51年度から昭和54年度までは学校図書館大会は開催されず低迷期を迎えている。昭和60年代に入り、学校図書館は大きく変化する。従来の図書館サービスは「貸出中心主義」といわれていたが、図書館施設のリニューアル、レファレンスサービス、授業支援と「学校」という特色を活かした図書館運営が注目されるようになった。平成に入り図書館の情報化は急速に進み、パソコンによる書誌入力、貸出返却のバーコード化等は一般的となる。その一方で昭和から平成にかけて引き継がれ、解決の糸口を見いだせていない学校図書館の現状についても考察する。

本研究では今後、①昭和20年代②昭和30年代③昭和40年代年④昭和50年代⑤昭和60年代⑥平成元年から平成9年⑦平成10年代⑧平成20年代と10年ごとに時代を8区分し、鹿児島市以外の市町村における学校図書館運営も研究しながら、鹿児島県の学校図書館史として体系化しまとめたい。

 

18:05  閉会

18:30 懇親会

「Cafe&Deli OVNi(オヴニー)」(会費3,500円)

鹿児島県鹿児島市加治屋町6-8  TEL  099-222-0052

鹿児島女子短期大学から徒歩約5分

*研究発表会場(鹿児島女子短期大学)へのアクセス方法については

鹿児島女子短期大学交通アクセス

キャンパス紹介

をご覧ください。(駐車場はありません)

*お問い合わせは下記事務局までお願いいたします。

西日本図書館学会 平成30年度秋季研究発表会事務局

〒891-0197 鹿児島県 鹿児島市 坂之上8-34-1

TEL. 099-261-3211(代) FAX. 099-263-0527

鹿児島国際大学 国際文化学部 中尾康朗

y-nakao@int.iuk.ac.jp