平成29年度秋季研究発表会(長崎)

発表一覧

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14:00

 CiNii(NII学術情報ナビゲータ)データを利用した文献情報提供WEBサイトの制作に

  関する一考察 〜WEBサイト「旧オルト住宅の建築について」の試作事例から〜

発表者 森 茂樹(元活水女子大学図書館)

発表の概要

活水女子大学の故宮本達夫教授が長崎市などの文化財保存調査等で作成された「長崎山手区洋館建築群」等の建築図面(原図)を同大学図書館に所蔵している。

今回、その中の「旧オルト住宅」の建築を取り上げ、概要や建築図面の表示、関連文献、関係サイトの紹介を目的としたWEbサイトの試作版を制作した。

Web制作は、テキストエディタSublime Textを利用し、HTML、CSS、jQueryをコーディングしたが、特に、関連文献データについてのWEBページの制作方法は、CiNii(NII学術情報ナビゲータ)の論文、図書・雑誌データベースの検索結果をタブ形式でダウンロードし、Excelのテキストファイルウィザードでインポートした。そのファイルをExcelのアドイン「XLS2HTMLTABLE」を利用し、HTMLのTABLEタグに一括変換する手法で制作した。

今回の発表は、WEBサイト「旧オルト住宅の建築について」の試作事例をもとに、CiNii(NII学術情報ナビゲータ)データのダウンロードとExcelのアドイン機能を利用した一括変換による効率的な制作手法を紹介し、図書館での情報発信の一つとしての文献情報提供WEBサイトの制作に際し必要なプログラム環境やデータの収集、WEBでの公開に関連する著作権等、制作上の留意点や課題について考察する。

 

14:30

 久留米大学御井図書館における学生と図書館職員による選書の実践報告

発表者 工藤 彩(久留米大学御井図書館・司書)

発表の概要

大学図書館の基本的機能は、学生の学習や大学が行う研究活動を支えることであり、大学図書館は大学の教育・研究に関わる学術情報を体系的に収集、蓄積、提供を行うことで、教育研究に対する支援を行ってきた。電子化の進展した現代社会においては、従来からの印刷資料に加え、電子資料を収集・整備しているが、多くの大学図書館においてコレクションの中心は、今もなお印刷資料である。

大学図書館の蔵書構成の選書者は兼ねてより教員が中心であったが、学生の意見を反映した蔵書構成、読書支援の一環として、多くの大学で「選書ツアー」を実施している。

久留米大学御井図書館においても、学部学生による「選書ツアー」を平成21年度より実施し、学生の読書支援、学生の意見を反映した蔵書構成に努めている。さらに、学生の主体的な学びを支援する取り組みとして、平成28年4月より図書館職員による積極的な学生向け図書の選書を開始した。

本報告では、「選書ツアー」での学生の選書図書と図書館員による選書図書の貸出分析を通し、久留米大学御井図書館での図書の利用動向を報告する。

 

15:00

 読書への誘い 〜「本」を裁判する授業実践から〜

発表者 木村修一(北海道武蔵女子短期大学)、宍道勉(鳥取大学非常勤講師)

発表の概要

2017年9月に北海道武蔵女子短期大学の司書講義で行った読書を考える取り組みの報告である.

講義のタイトルは,宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」を捩り「どんぐりと山猫裁判~本の裁判をします」とした.本を読まない理由の一つに食べ物の嗜好に「食わず嫌い」があるように,読書しないのも「読まず嫌い」があると思われる.この問題を見極めることによって「本を読む」意味を考えるものである.

当日一コマ講義を以下の順序で行った.

1.グループ編成(5~6名程度)

今回50数名の受講者を前もって9グループ編成をした.

2.図書館で「本」選び(講義前の課題)

図書館で「読みたくない本」を誰にも相談しないで自分で選び,講義のとき携行する.

(今回はNDC9類と「絵本」「童話」の中から選ぶ,外国語の原書は除外)

3.講義順序

-1「目録カード」に書誌事項(分類記号も)を記載する.

-2 本との出会い(いつ,どこで)を記録する.

-3 読みたくない理由をメモする.

-4 グループで「本の紹介」と「読みたくない」理由をプレゼン(一人2分)する.

-5 「グループ」で検討し「読みたくない本」を有罪とし「全員の裁判」にかける.

-6 グループ代表の検察官が9冊の「読みたくない「本」(被告)」の起訴理由を陳述す.

-7 全員が裁判官(員)弁護士となり,起訴理由について質問する.

-8 判決.

被告本の中に読みたい本があれば理由を主張→「無罪」.それ以外の本は「有罪」.

さて「有罪」宣告を受けた本とは?

-9 閉廷(「講義」のまとめ)

最初に講義の「ねらい」を伝えると,それを意識するので,最後に彼らが納得したと思われる以下をまとめとした.

1)人それぞれが「本」に対する考え方が違うこと(違う)

2)他の人(グループ)に「自分が選んだ本」を語る(関わる)

3)「読書」とは本の全てを読むことではないことを知る(変わる)

4)本を読まない人を「誘う」方法になる

本報告ではさらに,上記に挙げた「ねらい」は学生には,どのように伝わり,学びとなったのかについて,学生に課した授業レポートの分析を行う.

 

15:30

 学校司書モデルカリキュラムによる養成技能の妥当性に関する研究

発表者 小田光宏(青山学院大学・教授)、仲村拓真(青山学院大学大学院・博士後期課程学生)、庭井史絵(慶應義塾普通部・司書教諭)、堀川照代(青山学院女子短期大学・教授)、間部豊(帝京平成大学・准教授)

発表の概要

本発表は,学校司書が実務で必要と認識している技能(知識・技術)と,学校司書モデルカリキュラムで養成することが予定されている技能とを照合し,その妥当性に関して考察したものである。

学校司書が実務で必要と認識している技能に関しては,科学研究費補助金に基づく「学校図書館職員の技能要件と資格教育のギャップに関する実践的研究」(平成26-28年度,研究代表者:小田光宏)の成果に基づいている。この研究においては,先進的な取り組みをしている学校司書を対象に,司書養成科目で扱う内容の必要性を尋ね,また,司書養成科目で扱う内容に不足していると思われる知識・技術を回答することを求める聴取調査を,研究課題の一つとして実施した。

本発表では,この調査結果を,学校司書モデルカリキュラムで扱う諸科目の内容と照合し,二つの側面から考察した結果を報告する。

一つは,不足していると指摘された知識・技術が,学校司書モデルカリキュラムにおいて扱われているかに関して考察した結果である。

これまでの学校司書の多くは,司書資格を取得するための科目(司書養成科目)で学んだ内容を,学校図書館での実務に「援用」している。したがって,司書養成科目では扱うことが予定されていない学校図書館に関係する知識・技術が,「不足」していると認識されることになる。そうした知識・技術を,学校司書モデルカリキュラムが扱っているかどうかを確認し,学校司書モデルカリキュラムの内容が妥当であるかどうかを考察する。

もう一つは,学校司書が特に必要と認識している技能が,学校司書モデルカリキュラムにおいて,扱われているかどうかを考察した結果である。学校司書に提示して尋ねた知識・技術は, 司書養成科目で扱われているものであることから,学校司書モデルカリキュラムの科目においては,それらが「除外」されてしまった可能性もある。本発表では,そうした「除外」の状況が生じているかどうかに着目し,得られた概況を報告する。

最後に,本発表における研究アプローチの制約について述べ,併せて,今後の課題となる事項を指摘する。

16:30    

     病院の図書室:佐賀県立図書館好生館分館を例に

発表者 野村知子(久留米大学文学部非常勤講師)

発表の概要

病院には、医療関係者のための図書室と、患者やその家族のための図書室の2種類の図書室がある。前者は医学図書館であり、医療情報を提供する専門図書館である。後者は患者や家族、市民に医療・健康情報等を提供している病院患者図書館である。公共図書館においても患者のインフォームドコンセントを支援する医療・健康情報サービスを実施している。

佐賀県立図書館好生館分室は、2013年、佐賀県医療センター好生館内に設置された都道府県立図書館の分室である。好生館分館を例に病院患者図書館の現状と課題を考察する。

 

17:00

 2回指導者講習会のレファレンス教育に使用された波多野賢一論文の考察

発表者 前川 和子(元大手前大学)

発表の概要

第二次世界大戦後の1950年に「図書館法」が施行され、司書と司書補の資格が新設された。新しい時代の公共図書館を担うために、全国の公共図書館員の再教育、さらにその教育が行える講師を育成することが急務となった。文部省は指導者養成講習会第1から第3回を1951年に開催した。この中で、第2回指導者講習会は後者の目的を担った。

同時期、慶應義塾大学文学部内に日本図書館学校が1951年に開設された。この日本図書館学校では、校長のR. ギトラーにより最新の米国図書館学の知識をもつ教員が招聘された。日本図書館学校の教員たちは、指導者養成講習会の講師も担当したのだった。この講習会でレファレンスを担当したのは、それらの教員の一人であったF. チェニーである。そして、レファレンス教育に使用されたのは、今沢慈海、波多野賢一、渋谷国忠等の論文であった。

波多野賢一は戦前に活躍した人物で、太田為三郎の影響を色濃受けている。波多野は江戸資料の蒐集整理、参考業務の実践的研究に取り組み、文献目録の作成を図書館員の重要な仕事と位置付けている。参考業務の分野では「図書館に於ける参考事務」や弥吉光長との『参考文献総覧』を残している。

この発表では、第2回指導者講習会で使われた波多野の「図書館に於ける参考事務」を取り上げ、何が評価されてその教育に使われたのかを考察する。

 

17:30

 占領下沖縄における学校図書館文化を支えた男性教師たち(2

発表者 漢那憲治(沖縄国際大学南島文化研究所・特別研究員)

発表の概要:

占領下沖縄の教師たちにとって、1950年代は学校現場において教育活動が盛んになってきた時期である。戦後日本における新教育運動の胎動の中で、沖縄の学校図書館運動の萌芽は1951年前後にみられ、その取り組みがわりあいに遅かった。にもかかわらず、50年代後半より沖縄各地で学校の創立記念事業として学校の中の図書館建築がPTAや地域社会の協力を得て進められた。復帰前(1972)には、このようにして建てられた独立棟の学校図書館が69館にも達していたという。

本土復帰10年後に全国学校図書館協議会によって刊行された『学校図書館白書』(1983)によれば、公費による学校図書館専任職員(学校司書)の配置率、蔵書達成率、図書予算などと、沖縄が本土の平均よりも抜きん出ていることが報告されている。

占領下沖縄で、①どういった背景で学校図書館活動がこのように活発に展開されるようになったか、②そのような学校図書館文化を支えた教師(女性教師)について、前回の発表(平成28年度・秋季研究発表会)で報告した。

今回は、男性教師に焦点をあて代表的な方々の活動と業績について紹介したい。