西日本図書館学会 令和4年度(2022年度)
秋季研究発表会 発表概要

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13:10-13:40 発表(1)

【オンライン】鹿児島市立図書館学生ボランティア活動の現状と課題

/ 岩下 雅子(鹿児島国際大学国際文化学部)、朝隈 大鷹(鹿児島国際大学国際文化学部)

鹿児島市立図書館は,平成2年12月,鹿児島市鴨池に開館し,「誰でも気軽に利用できる図書館」を目指している。鹿児島市立図書館の基本目標は3つあり,基本目標1は「市民が利用しやすい図書館」,基本目標2は「市民に役立つ図書館」,基本目標3は「市民と協働し学びを支える図書館」である。この基本目標3の「市民と協働し学びを支える図書館」の重点施策としては,①「様々な世代に対応した多様な学習や交流の機会を提供する」②「様々な世代が主体的に読書活動に取り組む環境づくりを進める」③「関係機関や団体等との連携に努める」④「ボランティア活動等の促進に努める」の4項目が挙げられている。また,鹿児島市立図書館では,指標名「おはなし会・講座の参加者数」「満足度 イベント、企画・展示」の目標値を定め,取組状況を総合的に評価し,改善するよう努めている。

「鹿児島国際大学ビブリオ俱楽部」は,令和3年11月13日から,岩下雅子ゼミ生と図書館司書資格取得希望の学生で構成されている。大学の授業で学んだことを基に鹿児島市立図書館で実践しようとするボランティア活動である。ボランティアの活動のメンバーは現在19名である。

ボランティア活動日時は,令和3年11月13日から令和3年12月18日(木曜日,金曜日,土曜日)。令和4年5月7日(毎週土曜日)。活動場所は,鹿児島市立図書館の研究室を使用している。活動内容は,実際に鹿児島市立図書館を学生が見学して,図書館職員と話し合いを持ち、図書館利用者の読書活動を支援するコーナーや図書館がこれまで力を入れたいコーナー等の刷新を図る企画を立て,実現可能なものから直ぐに実施していく方向で広報活動に取り組んでいる。鹿児島市立図書館のボランティアは無償であり,広報活動等の活動予算は年間1万円以内である。

鹿児島市立図書館で令和3年11月13日から続けているボランティア活動も約1年が経とうとしている。鹿児島市立図書館での具体的な実践活動を通して、大学生がボランティア活動を行う上で図書館現場ではどのような課題が見えてきたのか。学生がボランティア活動で取り組みたいことと、図書館が学生ボランティアに求めるものの相違は何か。学生と図書館が協働作業を実施する上で双方が直面した課題の解決は図られるのかを考察する。

 13:45-14:15 発表(2)

【オンライン】高等学校国語科における学校図書館との連携~『山月記』の授業の取組みを通して~

/ 上釜 千佳(鹿児島城西高等学校)

論者が非常勤講師として勤めている鹿児島城西高校では、高校3年生の1学期の現代文Bの授業で『山月記』を取り上げている。『山月記』は、中島敦の短編小説で、詩人になるという夢に破れて虎になってしまった主人公の李徴が、自分の運命を友人の袁傪に語るという変身譚である。

高等学校では、2022年度より新たな学習指導要領による授業が実施されることになった。今回の学習指導要領では、「グローバル化の進展、社会構造の変化、雇用環境の変化といった予測困難な時代の認識の中で、その立場や考えの異なる他者と共生していくために、多面的・多角的な視点から物を考えると同時に、自分の主張や考えを論理的に伝えていくことが大事であり、その力を育んでいかなければならない」1 )という認識が語られている。『山月記』は、主人公李徴の苦悩と孤独を読み取るとともに、李徴の生き方に触れたうえで、自分自身の問題として捉え、考えさせることができる教材である。しかし、漢文調で書かれているため読解が難しく、内容が理解できないということも起こり得る。内容を理解し、多様な読みをした上でそれを論理的に伝えることが目標であるが、読みづらさから興味・関心がわかない生徒が多いのも現状である。そこで少しでも教材に興味・関心をもってもらい、内容理解の手助けとなってほしいということで、本校の図書館と連携を図り、『山月記』に関するテーマ展示を行うことにした。学校図書館の図書以外にも鹿児島県立図書館から関連本の団体貸出をおこない、1ヶ月間展示した。同時に図書の貸出を促すとともに図書館を利用した授業をおこなった。どのような図書が展示しているかが一目で分かるよう資料を準備し、「中島敦について詳しく知りたい!」「色々な『山月記』を読んでみたい!」「『山月記』が元になった小説が読みたい!」「『山月記』の舞台となっている中国の時代(天保末年)・漢詩について知りたい!」の4つのテーマに沿って図書集めをおこなった。資料は全学年全クラスに配布した。

『山月記』の授業と学校図書館の連携によって、どのような効果があったのか。内容理解の手助けとなったのか。多様な読みはできるようになったのか。学校図書館と連携することで得られたこと、見えてきた課題について報告するとともに、学習・情報センターとして授業支援を行うことで、学校図書館にどのような可能性があるのか探っていきたい。

1) 論者の修士学位論文『学高等学校習指導要領(平成30年告示)と高校国語における文学教材の可能性』より引用。

 14:20-14:50 発表(3)

【オンライン】日米の公共図書館におけるオーディオブック

/ 大庭 一郎(筑波大学 図書館情報メディア系)

オーディオブック(audio book)とは、「書籍内容をそのまま録音したコンテンツ」であり、「媒体としてはカセットテープやCD-ROMなどが使われてきたが、近年、インターネット上のダウンロード配信」(図書館情報学用語辞典.第5版.丸善出版,p.23-24.)が増加している。車社会の米国では、媒体がカセットテープの頃からオーディオブックの製作・販売が盛んであり、公共図書館のコレクションとしてオーディオブックも収集され、図書館利用者に活用されてきた。一方、日本では、1980年代にカセットテープのオーディオブックが製作・販売されたが、米国のように普及せず、公共図書館の所蔵資料として十分に定着してこなかった。しかし、近年、スマートホン、タブレット、パソコン等の普及にともなって、日本でもオーディオブックに対する関心が高まってきている。伝統的な紙媒体の「本を読む」に対して、オーディオブックは「聴く本」であり、「本を聴く」ことや「耳読(みみどく)」は、幅広い年代の読者に受容される可能性を秘めており、公共図書館の所蔵資料としても重要性が高まることが考えられる。しかし、オーディオブックを紹介した文献は時々発表されてきたが、日米の公共図書館のオーディオブックに関する研究は、十分に行なわれてこなかった。

そこで、本研究では、日米の公共図書館におけるオーディオブックに関する基礎研究の一環として、日米のオーディオブックの出版状況、公共図書館におけるオーディオブックの利用に関する文献を収集し、公共図書館におけるオーディオブックの現況と可能性について分析・考察した。

15:05-15:35 発表(4)

【会場】英語と日本語の絵本の題名に関する日本語訳・英語訳について

/ 倉光 信一郎(鳥取短期大学)

小学校高学年に教科として英語が入ったため、学校図書館に英語の絵本が多く置かれるようになった。

英語で書かれている絵本の題名の特徴は、「①英語の直訳が日本語の題名になっている」「②英語の直訳と日本語の題名が似ている」「③英語の直訳と日本語の題名が違っている」の3つに分かれる。私が調べた194冊の英語の絵本の題名は、①が27%、②が64%、③が9%あった。 今回は時間の都合上、③にあたる絵本の特徴がよく表れている6冊について述べてみたい。

原典の英語表現より日本語訳の方がいい題名が付けられていると考えられるのが、「THE RABBITS’ WEDDING」→「しろいうさぎとくろいうさぎ」(文・絵:ガース・ウイリアムズ 訳:まつおかきょうこ 2004年 福音館書店)と、「I WANT MY HAT BACK」→「どこいったん」 (作:ジョン・クラッセン 訳:長谷川義史 2011年 クレヨンハウス)。

原典の英語表現の方が日本語訳よりいい題名が付けられていると考えられるのが、「THE HAPPY DAY」→「はなをくんくん」(文:ルース・クラウス 絵:マーク・シーモント 訳:きじまはじめ 2003年 福音館書店)。

原典の言語表現ではなく、訳した人の言語表現(範囲を超えた意訳)で題名が付けられていると考えられるのが、「THE THREE ROBBERS」→ 「すてきな三にんぐみ」(作:トミー・アンゲラー 訳:今江祥智 1969年 偕成社)と、「ぐりとぐら」(作:中川李枝子 絵:大村百合子 1967年 福音館書店)→「Guri and Gura The Giant Egg」と、「ぐるんぱのようちえん」(作:西内ミナミ 絵:堀内誠一 1966年 福音館書店)→「The Happiest Elephant」。

小学校の図書館に英語の絵本を置くのなら、題名も含めてもともとの英語や日本語の表現に即した訳になっている(表現されている内容の範囲内で訳されている)絵本を置いてほしい。それは、英語に親しむため、そして英語を勉強・研究するため。

小学校高学年に教科として英語が入ったからといって、私は、英語の絵本を置くことにあまり必要性を感じていない。すばらしい日本語を駆使して書かれた絵本をたくさん置いてほしいと思う。

15:40-16:10 発表(5)

【会場】授業実践を通した図書館利用の現状と課題

―松江工業高等専門学校における英語多読の取り組みを事例として―

/ ハーヴィー 佳奈(松江工業高等専門学校)

国際図書館連盟(IFLA)が1999年に宣言した『図書館と知的自由に関する声明』には、「図書館は、社会の多元性と多様性を反映した出来る限り種々様々広範囲にわたる資料を収集し、保存し、利用に供さなければならない」とある。また、1991年に全国学校図書館協議会が定めた『学校図書館憲章』には、「学校図書館は、児童生徒に読書と図書館利用をすすめ、生涯にわたる自学能力を育成する」ことが理念の1つと掲げられ、「学校図書館は、図書資料・逐次刊行資料・視聴覚資料・ソフトウェアなど広範な資料を備える」ことを機能としても挙げている。このように、教育を支える図書館は、教育実践の場としての機能のみならず、広範囲にわたる資料を提供し、読書・図書館利用の促進をすることで、自学能力の育成を図る役割も担っている。

松江工業高等専門学校(以下、松江高専)では、このような図書館の役割に大いに関わる、英語多読を取り入れた授業が実践されている。英語多読とは、辞書を使わずに多くの本を読むという学習方法であり、英語4技能(読む・書く・聞く・話す)全体を高めるという学習効果が報告されている。そのため、近年様々な高校や高等教育機関でも推進されており、松江高専でも、学生の英語運用能力の向上を図るべく、2011年度から英語科授業で取り入れている。英語多読用教材は松江高専図書館で管理されており、クラス全体で授業時間に図書館へ移動し、学生は館内に配架された英語多読用図書を各自選択し、読み、読書履歴を記録し省察するサイクルを繰り返す。

英語多読用教材を図書館蔵書に加え管理し、図書館内で英語授業を実施していることから、松江高専図書館は教育実践の場としての図書館の機能を有している、と言える。しかし、広範囲にわたる資料収集と、学生の自発的な図書館の利活用および自学能力の育成の促進においては、検証の余地が残されている。そこで本発表においては、英語授業を通した図書館利用や英語多読用図書の蔵書構築の状況に加え、多読用図書の貸出状況や学生の意識調査の結果も報告し、図書館の利用促進に繋げるための今後の課題を明らかにしたい。

16:15-16:45 発表(6)

【会場】公立図書館は裁判で「名誉毀損・プライバシー侵害図書」であると認定された所蔵図書をどのように考えて取り扱っているのか

/ 安光裕子(元山口県立大学)、藪本知二(山口県立大学社会福祉学部)

2022年3月に全国の公立図書館(都道府県立・市立・特別区立・町立・村立の図書館)1,392館から無作為抽出した464館を対象に,次のような目的で質問紙による調査を行った。すなわち,図書館所蔵の図書が,裁判所の確定判決で名誉毀損・プライバシー侵害を理由に著者・出版社に対する損害賠償請求が認められた図書(以下,「名誉毀損・プライバシー侵害図書」という。)に該当することを所蔵後に知ったとしたら,当該図書をどのように取り扱おうと考えているかを明らかにする目的で調査を行った。そのため,この調査では「名誉毀損・プライバシー侵害図書」の取扱い,すなわち,①所蔵している「名誉毀損・プライバシー侵害図書」が開架されている場合,保存場所を変更するか否か,②所蔵している「名誉毀損・プライバシー侵害図書」を除籍廃棄するか否か,③所蔵している「名誉毀損・プライバシー侵害図書」の閲覧を認めるか否か,④所蔵している「名誉毀損・プライバシー侵害図書」の閲覧を認める場合,「名誉毀損・プライバシー侵害図書」であることを口頭または書面で伝えるか否か,⑤名誉毀損・プライバシー侵害がないように改訂された「名誉毀損・プライバシー侵害図書」を収集するか否かを問うとともに,これら各「名誉毀損・プライバシー侵害図書」の取扱いに当たり重視する事項およびその事項について重視する程度を問うた。

このたびの発表会では,以上の調査結果の概要を紹介するとともに,調査結果から得られる示唆について報告する。

 16:50-17:20 発表(7)

【会場】カオの見えない社会で カオの見える図書館サービスを

- 図書館における利用者プロファイリングの必要性 -

/ 山本 順一

わたしは、現在、ある雑誌に連載をもち、最近、土岐市立図書館問題利用者事件についてとりあげた(『みんなの図書館』11月号掲載予定)。この事件は司法の場に進み、第一審は岐阜地裁、名古屋高裁で控訴審、一審原告被控訴人は最高裁に上告しようとしたが期限を1日超え不受理、受理を求めて抗告、さらに特別抗告したが、最高裁に棄却された。

この事件の原告、女性利用者は、判決文の事実認定などを見ると、表面的事実としては、多くの人はとんでもない利用者だという判断をして当然と思われる。不必要に頻繁な貸出、閉架書庫からの資料の出納要求、図書館サービスへの苦情や職員への嫌がらせ、ルール違反の勝手気ままな施設備品と資料の利用、その他多種多様な図書館と職員にとっての超迷惑な言動、耐えられなくなって非正規職員のひとりが退職に追い込まれたという。堪忍袋の緒が切れた図書館は、ついに無期限の図書館への入館・利用禁止の行政処分を行い、裁判沙汰となった。

館長を含む正規職員が4人、会計年度任用職員として常勤の職員(司書)が7人、非常勤の職員が6人でこの図書館は運営されていた。問題利用者の不満のはけ口はもっぱら図書館と職員に向いており、第三者の利用者はこの騒動に一切巻き込まれていない。

わたしは、この土岐市図書館事件の登場人物を対象として、社会的要素、関係者の心理的要素、因果律、蓋然性などの知識、情報を動員して、プロファイリング を試みた。その結果、どうやら図書館側にも問題利用者のとんでもない言動を誘発する組織的諸要因、職員間の人間関係などが問題として浮かび上がってきた。

アメリカや海外の図書館では、近年、(個々の)図書館利用者についての理解を深める(Identifying Your Library’s Users)ということに重点を置き、21世紀の図書館利用者マーケットの変革、深化を図ろうとしている動きが読み取れる。また、図書館の分野に近年流行のマーケティング手法、UX(User experience)デザインを持ち込もうとする動きも顕著である。土岐市事件を契機にわたしが悟ったプロファイリングの有効性、一定の共通属性を帯びるコーホート析出に導くUXから特異性をもつ個人像の認識について、内外の文献を活用しながら論じることにしたい。

わたしが30年以上前、図書館の勉強をはじめたころ、現場の図書館員の方が「利用者の顔を思い浮かべながら選書するんですよ」と教えてくださったことにもつながるように思われてならない。