13:45-14:15 発表(1)ティーンズガーデンプロジェクト(TGP)の試み―施設改修から10代への図書館サービスを考える―
八田 明子(那珂川市図書館)
那珂川市図書館はミリカローデン那珂川という複合文化施設に併設されている。このミリカローデン那珂川が開館から25年以上経過したため、2021年度から4年にわたり施設全体の改修工事が行われた。那珂川市図書館は2023年1月から2024年5月に改修工事が行われ、大幅にリニューアルされた。リニューアルでは、施設が“住民の第三の居場所”となることを目標の一つとしており、子どもが学校以外に集える場所になる事も視野にいれ、那珂川市図書館内に「ティーンズガーデン」という10代向けのスペースが新設された。
この「ティーンズガーデン」の設備や運用について、利用の中心となる子どもと一緒に検討をするため、那珂川市内唯一の高校である福岡女子商業高等学校と連携し、「ティーンズガーデンプロジェクト」を発足した(2023年6月)。プロジェクトには、高校生15名と関係団体の大人数名が参加し、大人のみの事前打ち合わせを2回と、高校生を中心としたワークショップを6回行った。ワークショップでは、高校生が様々なことを学び考えながら、図書館にある10代向けのスペースについて欲しい設備や図書館で実施したいことをまとめ、発表を行った。高校生の意見は可能な範囲で「ティーンズガーデン」に反映された。
本発表では、この「ティーンズガーデンプロジェクト」の2023年度から2024年度にかけての事例報告及び現在の高校生が施設に求めることについて、本ワークショップや他館の事例を通して分かったこと等をまとめる。
14:20-14:50 発表(2)文部省による『全国図書館ニ関スル調査』(1931,1936)の特徴
仲村 拓真(山口県立大学)
本研究の目的は,1931年及び1936年に文部省が調査し,刊行した『全国図書館ニ関スル調査』の特徴を明らかにすることである。
『全国図書館ニ関スル調査』は,全国の公共図書館を対象として,文部省社会教育局が行った調査の結果をまとめた報告書である。この報告書は,近代日本における公共図書館の実態を把握するための基本的な史料として知られており,図書館史研究において,繰り返し参照されてきた。特に,1936年に実施されたものは,日本図書館協会によって,1978年に復刻されたため,広く用いられてきたと捉えられる。
しかし,既存の研究では,史料として活用されているにもかかわらず,この調査の経緯や方法が明らかになっていない。また,調査結果について,過去の調査に比べて調査内容が詳細であることや,統計的な誤りが散見されることは指摘されてきたが,全体的な正確性や類似する調査との相違は,十分に検討されていない。
このような図書館調査を分析することは,調査報告書を参照した研究成果を適切に解釈するうえで不可欠である。また,今後の研究において,調査報告書の史料としての活用可能性を高めることにもなる。さらにいえば,調査の実施や内容を通して,当時の文部省や図書館界が,どのような情報を重視し,必要としたかを考察することが可能になる。
以上をふまえて,本研究では,次の3点を研究課題とする。すなわち,(1)調査をめぐってどのような意見が示されていたのか,(2)調査はどのように行われたのか,(3)調査内容にはどのような特徴が認められるのか,の3点である。これらの研究課題を検討するために,史料として,雑誌記事や調査報告書,図書館の事務資料を用いる。具体的には,雑誌記事における言説の整理,調査報告書の内容の精査,事務資料と調査結果の照合を行うことで,『全国図書館ニ関スル調査』の特徴を明らかにする。
14:55-15:25 発表(3)ルーブリックを適用した文献調査教育の試み-久留米大学文学部情報社会学科における授業開発事例-
玉岡 兼治(上田短期大学 総合文化学科),遠山 潤
近年、大学教育における学習成果の可視化がさまざまなところで論議されている。2019年7月には中央教育審議会大学分科会教学マネジメント特別委員会で、京都大学の松下佳代氏が「学習成果とその可視化」について説明を行っているのはその一例である。
こうした学習成果の可視化が大学教育の課題となる中、各学生の具体的な学習状況把握のツールとして、ルーブリックを作成・利用した到達度評価・測定が各大学で実施されはじめている。
発表者の2名は久留米大学文学部情報社会学科において、文献調査・卒業論文指導についての授業を担当し、玉岡は、2021年度から2024年度の間、1年生から4年生までの全学科全学生を担当した。
各学年の担当科目の授業設計・授業計画を行う際に、学科全学年の全学生を担当することを生かす方策として、各科目を独立させるのではなく、学生の4年間をトータルに展開する授業計画を作成することとした。
具体的には、情報社会学科学生が卒業論文を執筆・提出できる知識・方法・技能を習得させることを最終的な到達点とし、卒論執筆に必要な学習事項を4年間継続して、段階的・系統的に学ばせる授業計画を作成した。
本教育は、図書館主体で行われる1回完結の講習会とは異なり、大学の正規のカリキュラムとして組み込まれた授業である。授業終了時には、学生に対する授業評価が実施される。この授業理解度把握のツールとして1年生から4年生までの各学年用のルーブリックを作成し、各科目で使用した。またこれにより、学生側も15回の授業を受講後、自身の学修の理解度の把握の資料とすることができ、授業全体の振り返りもできる。
今回の発表は、2021年度から2024年度にかけて実施した文献調査教育において開発・導入したルーブリックについての紹介、授業内での活用方法から、最終的な学生の授業内容の事後評価までの実践研究報告である。
15:40-16:10 発表(4)「図書館の自由」体験報告から JLA自由委員の受難~体験を通して考える、「図書館の自由」の原則を貫くことの厳しさ
西河内 靖泰(広島女学院大学 非常勤講師)
日本図書館協会の「図書館の自由委員会」(自由委員会)は「図書館の自由に関する宣言」を普及・啓発するためにつくられ、「図書館の自由」に関する問題や事件を調査する役割を担ってきた。自由委員会は「図書館の自由」に関する問題や事件が起きた時には、関係者への調査を行うことや見解や声明を出すなどしてきた。だが、その時の委員会の見解や姿勢は、必ずしもすんなりと世の中に受け入れられていたわけではない。「図書館の自由」の原則をどうしても理解できない人たちからの批判や非難は当然にあった。委員会の役割には、なかなか理解してもらえない人たちに向けての普及・啓発もあるから、それらの批判や非難は覚悟している。だが、言論での批判や非難にとどまらず、委員個人への攻撃や嫌がらせまで甘んじて受けなければならない謂れはない。でも、そうしたことがあることは、世間的にはほとんど知られていない(日図協も委員当人も語らないからだ)。
西河内は、自由委員として30年以上関わり、6期12年委員長を務めた(一昨年委員を退任)。西河内は、歴代委員や委員長のなかで、最もそうした個人攻撃や嫌がらせを受けてきたが、その事実については公に明らかにしてはこなかった。その私の具体的事例について、山本順一先生(桃山学院大名誉教授)が『みんなの図書館』2025年3月号で明らかにされた。そのこともあって、こうした問題について、自らの体験を公の場(特にアカデミックな場)で語ることの重要性を今まさに感じている。
今回は、私が自由委員・委員長として体験したいくつかの受難の報告とともに、私が山口県下関市立中央図書館長在職時代に経験した個人攻撃を受けた事例について「図書館の自由」の視点から検証するともに、図書館に関わってきた者として「図書館の自由」の原則を貫くことの厳しさの現実を明らかにしていきたい。
16:15-16:45 発表(5)トランプと闘うアメリカ図書館界
山本 順一
4月29日で第二次トランプ政権は100日を迎えた。大統領選に勝利するために、軽口をたたいたロシア v ウクライナ戦争はまだ片付かず、関税やイーロン・マスクが主導するDOGE(Department of Government Efficiency、政府効率化省)など、内外に迷惑で不合理な面を多くもつ諸施策を展開している。地金を露呈したトランプ政権は、中国やカナダなどの外国政府と険悪な関係に陥っただけでなく、国内でも少なくない州政府やハーバード大学などの有力大学などに反発を受けている。ALA(アメリカ図書館協会)が率いるアメリカ図書館界は、この反トランプ戦線の先頭勢力の中の目立つ存在となっている。
1月20日のホワイトハウス復帰以来、トランプは大統領命令(executive orders)やその他の措置によって、アメリカ国内の図書館や図書館現場に対する攻撃を続けており、日常的な図書館業務に多大の混乱が生じている。大きなものをいくつか挙げると以下の通りである。① 博物館・図書館サービス振興機構(IMLS、Institute of Museum and Library Services)に向けた組織縮小の脅威は、3月14日の大統領令によってもたらされた。② 1月末にはじまった科学、保健衛生、人権、外国支援その他に関する数千に及ぶ連邦政府のウェブページが改変、除去された。③ DOGEによって連邦政府が所管する図書館から多くの職員が突如解雇された。④ 国防総省がDEI(diversity多様性、equity公平性、inclusion包摂性)を取り扱ったものと判断した資料を軍事基地内の学校図書館から除去した。⑤ 連邦補助金プログラムの運用と結果が不分明な状態にある。そして、ALAはだまっておらず、IMLSを含む7つの連邦機関を廃止しようとする大統領令を許すことができず、トランプを相手取って、連邦裁判所に訴えた。
本研究では、以上の経過と問題点について、考えてみたい。
16:50-17:20 発表(6)臨床「知」図書館学は図書館司書(教諭)が学び研究する学問である
宍道 勉(島根県鳥取県支部)
序
臨床図書館学は昨年の本会で唱えて以降、様々な機会に広めていたが、その後、米国の医学図書館に於いて、司書が臨床医のために医療情報支援を行うのを「臨床図書館」、その担当司書を「臨床司書」と称すると知った。これは筆者の提唱した考えとは全く異なるので、臨床「知」図書館学と改めこととした。
筆者の考えは、図書館現場(臨床)で利用者との経験(症例)で得た臨床「知」をテーマとする学問である。今回改めて5W1Hで紹介する。
第1章 いつ
日常の図書館業務
第2章 どこで
図書館(学校図書館)
第3章 誰が
司書(司書教諭)と利用者
第4章 何を
序で述べた通り、日常の図書館現場で利用者との実務(症例)で得た、いわゆる臨床の「知」を取り上げる
第5章 なぜ
従来の図書館情報学学者は理論を重視するため、現場が疎かである。従って図書館現場で生じている数多くの問題(図書館の病)の解決を諮る。
第6章 どのように
図書館現場(臨床)の症例とその処方を分析し、学際的思考を採り入れ、学ぶ。
利用者とは与える、教えるでなく「共に」学ぶ姿勢で臨む。そして図書館の利用とともに「参加」姿勢を求める.