発表要旨(2025年度秋季研究発表会)
13:35-14:05 発表(1)
高等学校国語科(現代の国語)における表現力の育成と読書推進~ビブリオバトルの実践を通して~
/上釜 千佳・秋山 綾香(鹿児島高等学校)
発表者が勤務する鹿児島高等学校で、1学期に情報ビジネス科1年生の現代の国語でビブリオバトルを実施した。各クラスでグループによる予選大会をおこない、グループの代表者による決勝大会をおこなったのち、各クラスの代表者による学科全体でのビブリオバトルをおこなった。ビブリオバトルによって表現力の育成ができたのか、生徒たちの読書推進に繋がったのか、ビブリオバトルの成果や課題点について発表していく。
高等学校学習指導要領(平成30年告示)国語の目標として、「(2)生涯にわたる社会生活における他者との関わりの中で伝え合う力を高め、思考力や想像力を伸ばす。」iことが掲げられている。現代の国語においては、「(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようになる。」ii「(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。」iiiことが目標とされている。読書を促すことや、自分の言葉で他者に伝えること、受け取った他者はそれに対して同意したり、質問したりすることで伝え合う力を身につけることが求められている。この目標を達成するために、発表者の取り組みとして、授業内でのビブリオバトルの実践をおこなった。
ビブリオバトルとは、発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まり、5分間で本の紹介をおこない、ディスカッションを2~3分でおこなったあと、読みたいと思った本に投票し、最多票を集めたものをチャンプ本とするもので、京都の大学の研究室で始まったのがきっかけである が、現在、小・中・高校といった教育現場でも広くおこなわれている。
高校生ということで、公式ルールを変えながらおこなった。また、ビブリオバトルを実施するにあたり学校図書館を活用した。学校図書館を利用することで読書を促すことができたのか、ビブリオバトルは生徒の表現力の育成に繋がったのか、授業内でのビブリオバトルの今後の可能性についても検討していきたい。
i『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編』東洋館出版社 2019 p.307
ii前出i)
iii前出ⅱ)
iv谷口忠大「第二章 ビブリオバトルはどうして生まれたのか?」『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』文芸春秋 2013 p.103-132
14:10-14:40 発表(2)
週報およびコレスポンデンスを用いた長崎CIE図書館の活動の分析
/長谷川 栄人(長崎県支部)
第二次世界大戦後、連合国最高司令官総司令部(General Headquarters Supreme Commander for the Allied Powers : GHQ/SCAP)の民間情報教育局(Civil Information and Education Section : CIE)によって全国23都市にCIE図書館が設置された。CIEは教育やメディアを通じて日本の民主化を促すための部局であり、CIE図書館もその政策の一端を担っていた。CIE図書館では開架式を採用し、レファレンス・サービスやインターライブラリー・ローンなどの図書館サービスを提供していた。また、文化活動も活発で、講演会やレコード・コンサート、映画会、英語教室などを実施していた。各地のCIE図書館長は、週報(Weekly Report)を提出することによって、これらの活動状況をCIE本部に報告していた。
CIE図書館に関しては、これまで数多くの研究がなされている。前述の週報を用いた研究も存在する。先行研究では、各地のCIE図書館の週報やコレスポンデンス(Correspondence)を分析することによって、図書館活動の諸相を明らかにしている。一方で、先行研究によっても十分に明らかにされていない面もある。
本研究では、長崎CIE図書館の週報およびコレスポンデンスを用いて、同館の活動について分析する。このとき、先行研究ではあまり注目されていなかった人物交流などの観点からも分析をおこなう。
14:45-15:15 発表(3)
司書課程「情報サービス演習」におけるボードゲーム活用の授業実践
/工藤 彩(久留米大学御井図書館)
本発表は、久留米大学司書課程科目「情報サービス演習II」における授業実践について述べるものである。2024年度より本科目を担当し、達成目標として「情報サービスに必要なレファレンスツールの特徴を把握し、適切に使い分けること」と「レファレンスインタビューに必要なコミュニケーション能力を身につけること」を掲げた。しかし学生はレファレンスブックに触れる経験が少なく、その特徴を把握して理解することが難しい状況にあった。そこで、学生に辞書へ関心を持ってもらう契機とし、またグループでの協働的な学びを促す活動としてボードゲームを導入した。
具体的には、近年多くの図書館で取り入れられているボードゲームの体験に加え、辞書を題材とした「広辞苑かるた」や、辞典を使った言葉遊びの「図書館たほいや」を実施した。これにより、辞書における語釈や表現の仕方を体験的に学ばせ、レファレンスインタビューに必要なコミュニケーション能力の育成を試みている。
本発表は、こうした取り組みの経過を整理し、途中段階の成果と課題を共有する中間報告であり、図書館教育におけるボードゲーム活用の可能性を検討する。
<休憩>15分
15:30-16:00 発表(4)
現役司書に聞く、司書職への就職活動戦略
/山口大輔(意眞)(広島女学院大学人文学部日本文化学科)
本稿は、現役司書へのインタビューを通じ、「司書職への就活戦略」を考察するものである。厳しい雇用情勢の中でも夢の実現を目指す学生のために、筆者(課程主任)は、採用動向や倍率の見方、求人の探し方、館種別の就職ルート、試験対策などを日々共有しながら、各人の戦略立案を支援している。就職支援の形は多様だが、いずれも「戦略の立案と共有」なくしては成立しない。課程とキャリアセンターが戦略を共有できれば、学生を多面的に支援する基盤も築ける。そこで本稿では、広島県立図書館で10年以上勤務する2名の現役司書に就活戦略をうかがった。その要点は以下のとおりである。
・就活エリアを広げれば受験機会は増やせるが、就活に費やせる各資源(資金・体力・時間等)が伴わなければ、期待値を比例的に上昇させることは難しい。ただし、マッチング度の高い求人との遭遇率は上昇させることができる(chapter1)
・就活戦略の立案時には、館種の違いを組み合わせるキャリア形成も一考すべきである(chapter2)
・行政職採用と司書職採用の何れで受験するかを判断するには、異動の有無や配属期間だけでなく、図書館における人材育成や業務内容の違いも考慮したい(chapter3・4)
・非正規職員での勤務経験は、職務経歴の拡充に繋がるだけでなく、試験勉強としても実に有効である(chapter5)
・求人情報の探索、年齢制限の確認、自治体研究などをはじめ、正確な情報をいかに多く収集できるかが成果を左右する(chapter7・8)
・課程教育では、「実務に直結する知識や技術の伝達」「図書館における共通言語の修得」「学問を純粋に楽しめる感性への刺激と涵養」のいずれの要素も大切にしたい(chapter9)
・課程生は、司書職への適性を把握し鍛錬できるような課題を自らに課す意識を持ちたい。(chapter11)
・就職戦略は各人が自らの状況に応じて構築すべきものであり、本稿もその最適化に資するための一資料として参照されたい。また就活戦略における普遍的傾向を導き出すためにも、引き続き、館種・キャリア・地域・性別などを異にする多くの現役司書にお話をうかがう必要がある(総括)
なお本稿の意義には、現役司書のリアルな思考プロセスや姿勢を一例として紹介できたこと、課程運営者の自己点検にも資する内容であること、地元・広島の図書館との連携をめざす上でその第一歩を具体的な形として踏み出せたことの三点を挙げたい。
16:05-16:35 発表(5)
「図書館サービス特論」における「多文化サービス」導入の試み
/浜口 美由紀(長崎純心大学)
多文化サービスに長年関わって来た筆者は、「図書館サービス概論」の中で多文化サービスを1コマ(90分)で講義するには時間的制約が多く、充分に伝えきれないと考えていた。
「図書館サービス特論」について文部科学省の説明では「各科目で学んだ内容を発展的に学習し、理解を深める観点から、図書館サービスに関する領域の課題を選択し、講義や演習を行う」と述べられている。
2023年度から「図書館サービス特論」(1単位8コマ)を活用して多文化サービスに特化した授業を開講した。今年で3回目である。多文化サービスを授業として組み立て、受講生に伝えたいこと、グループワークを活用して多文化サービスは身近なサービスである等と考えてもらうか、毎回試行錯誤している。この2年間の試案を提示して参加者の方々からもご意見を伺いたいと希望している。
16:40-17:10 発表(6)
「おはなし給食」の実際と可能性~小郡市での取り組みからの一考察~
/永利 和則(福岡女子短期大学)
絵本や物語の中に出てくる料理を給食の献立として再現した学校給食の取り組みが、全国各地で行われていることは、中山美由紀が2020年に「「おはなし給食」の近年の動向として」(カレントアウェアネスNO.345)で紹介している。この論文では、2005年施行の食育基本法により、食に関する指導と給食管理を職務とする栄養教諭が配置されたことが、学校給食における食育の教育活動を活発化し、「おはなし給食」が実施されるようになったひとつの要因だとしている。また、2010年の国民読書年と2014年の学校図書館法改正による学校司書の法制化も併せてその要因としている。
今回の発表では、中山が「おはなし給食」に公立図書館も加わるとより充実すると指摘した点を踏まえて、2010年から小郡市の公立図書館、学校給食課・給食センターと公立小中学校が一体となって取り組んでいる「おはなし給食」である「ものがたりレシピをいただきます」について、その背景や成り立ちから経緯をたどり、現在に至る状況から見えてくる成果と課題を述べる。
「ものがたりレシピをいただきます」が実施できた背景には、2009年度から小郡市立図書館が直営に戻ると同時に取り組み始めた「読書のまちづくり日本一」を目指す事業があったこと、また、4月23日の「子ども読書の日」に関連した事業として学校給食課の栄養士と市立図書館の司書が協働して打ち合わせを重ねて給食のメニューを作り上げていったことなどが考えられる。そこには、この事業の目的を学校給食課では「食育」、市立図書館では「家読」、公立小中学校では「読書」における課題解決策として捉えた。
また、2025年までの15年間継続している「ものがたりレシピをいただきます」の具体的内容をたどる中で、小郡市で長い間、この事業が続いている点を明らかにしていくことで、他の地域でも「おはなし給食」が普及できるかについて探る。