西日本図書館学会 令和6年度春季研究発表会

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14:15-14:45 発表(1)
ミライ on 図書館に所蔵されている長崎 CIE 図書館旧蔵書の特徴と有用性
長谷川 栄人

 ミライon図書館(長崎県立・大村市立一体型図書館)には、長崎日米文化センターという機関から寄贈された資料が約8,000点所蔵されている。この資料群は、GHQが設置した長崎CIE図書館や、同館の後継にあたる長崎アメリカ文化センター、さらにその後継の長崎日米文化センターの蔵書を引き継いだものである。以下、本稿では長崎日米文化センターから寄贈された資料群を長崎CIE図書館旧蔵書と呼ぶ。
 第二次大戦後、GHQの民間情報教育局(CIE)は、長崎を含む全国23都市にCIE図書館を設置した。しかし、その蔵書がまとまった形で現存していることが確認されている事例は、今回報告する長崎の事例をのぞいて、5件にとどまる。その点で長崎CIE図書館旧蔵書は貴重な資料群だと考えられる。一方で、この資料群については一般的にも、学術的にもあまり知られていない。
 そこで本発表では、長崎CIE図書館旧蔵書の特徴や有用性について報告する。特徴に関しては、他機関所蔵の類似の資料群との比較によって分析を行った。和書が存在すること、児童書が存在すること、日米文化センター時代に収集された資料が存在すること、などの特徴をもつことがわかった。
 次に、有用性について考察を行った。 長崎CIE図書館旧蔵書は、図書館学以外の分野においても活用が期待できると考えられる。たとえば、日米関係史やメディア論の分野で、パブリック・ディプロマシー(広報文化外交)の観点からCIE図書館やアメリカ文化センターが注目されている。CIE図書館やアメリカ文化センターの蔵書構成を明らかにすることは、アメリカの広報文化外交がどのように展開されていたかを研究する上で有用だと考えられる。このほか、図書館学や日米関係史・メディア論以外で活用が期待できる分野についても論じる。

14:50-15:20 発表(2)
司書課程科目におけるレファレンスクイズ POP 作成演習(報告)
奥村 治輝(活水女子大学図書館)
 久留米大学司書課程「情報サービス演習II」の授業において、同大学御井図書館所蔵のレファレンスブック(参考図書)を図書館利用者へ紹介することを目的とした「レファレンスクイズ POP(以下、POP)」を作成する演習を実施した。
 この報告では当該演習をふりかえり、成果と課題を検証する。はじめに導入の意図と演習方法を紹介し、つぎに学生の感想と担当者の気づき等をもとに考察を行ったのち演習の成果を示して、さいごに課題を挙げる。
 この演習は、これからの図書館の在り方検討協力者会議(H21.2)が「情報サービス演習」の概要として示した、5)質問に対する検索と回答、6)発信型情報サービスの実際、7)情報サービスの評価、これらを実践する能力の養成を目的として導入した。
 「POP」にはレファレンスブックの紹介と3択クイズを掲載しており、クイズの答えは紹介しているレファレンスブックの中に所在する。そのため、図書館利用者が「POP」の閲覧を通じてレファレンスブックを利用することにつながることも想定している。
 学生のふりかえりコメントから、多くの者が図書館利用者を意識して題材(レファレンスブックとクイズ)の選定と「POP」の創作に取り組んでいたことがわかる。そのため、否定的なコメントにはレファレンスブックの選択と紹介文およびクイズの作成が難しかったという感想が多かった。これは、細かい規則を設けないことで演習の自由度を高くしたことと執筆や創作の経験不足が原因のひとつと考える。
 この演習がきっかけとなり、自身の図書館利用促進、図書館および資料への親近感や興味・関心の向上、関連データベースの積極的利用、レファレンスの重要性の気づき等、様々な成果を学生は得たようである。
 課題としては演習の評価基準が挙げられる。これまでは 2 点(1参考図書を選択している、2書誌情報をもれなく記している)に着目して評価したが、多様な観点によるルーブリックを提示することが必要であろう。この他、学生同士による相互評価を導入してフィードバックすることも効果があると考える。

15:25-15:55 発表(3)
臨床図書館学を提唱する-新しい図書館学試論-
宍道 勉

臨床図書館学とは
(1)図書館と図書館用語の定義を考え直す
 −1日本の図書館(学=界)では「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設」(日本図書館協会)であり「施設」には、資料と利用者を結びつける役割を果たす「図書館員」がいて、図書館の機能を実現する活動を行っている、とある。
 −2演者の考える定義
 司書(教諭)が利用者(市民、子どもたち)を臨床(図書館)の場で「経験知(演者はすでに「臨床の知=自啓力」と命名」をもってサポート(サービスの名称を破棄)し啓蒙する。そこから利用者は参加者となり「図書館とは人が賢くなる場である」と認識する場である。
(2)方法
 司書(教諭)が臨床の場(レファレンスと読書要求)で、与えたり指導でなく利用者(市民、子どもたち)と「共に」学び、解決するよう啓蒙する。
(3)臨床図書館学の定義
 司書(教諭)が臨床の場で経験値を広げ、自啓力を開発、思考し研究する。それが臨床図書館学である。現場の図書館学を「本流」とすれば、本論は「分流」である。
(4)臨床図書館学の狙い
1)「司書(教諭)」の社会的地位の向上
 現代日本社会(市民)は文化としての図書館、文化人である司書の存在と意義を正確に認識していない。尤も図書館人社会では「非正規職員」の待遇改善が重要な話題だがそれは一部の市民にしか知られていない。待遇改善は勿論だが、定義の通り、司書の役割を前面に出し、その社会的地位の向上を図るべきである。
2)「司書(教諭)」は自分を見直す
 司書(教諭)は臨床の場で得た自啓力の学びを広げ、研究し公表する。これは臨床経験の乏しい「本流」図書館学(界)人を凌ぐことになる。

15:55-16:10<休憩>15 分

16:10-16:40 発表(4)
21 世紀における情報の多様な存在態様と図書館、図書館情報学に
ついて考える
山本 順一
 1990年代以降、世界にはアメリカの軍事研究から生まれたインターネットが普及した。その巨大な情報空間は、従来のリアルワールドの活字・印刷メディアの情報を質量ともに大幅にしのぐ、サイバースペースのデジタルコンテンツが支配するようになった。
 これまでは、情報発信の主体は放送局や出版業界、政府機関などで、一般に利用可能な情報は限られていた。彼ら情報強者に提供される大半の情報は、客観的事実、主観的感想、特定の意図を帯びたフィクションである。一般市民(情報弱者)は、与えられるアナログ情報を受け取るだけの存在であった。市民や研究者、学生生徒児童の情報・リテラシーニーズに応える図書館は、知る権利の実現と社会的マイノリティの利益配慮・認知に貢献する知的自由および読書の自由よって存在意義を発揮する。その提供する情報はそこに表示される分類・目録情報が出所・品質を保障していた。
 デジタル・ネットワーク社会の到来・深化は、ITジャイアント企業・オンラインプラットフォーム事業者のサイバースペース各部分の独占・寡占状態を現出し、情報強者と弱者の差異を相対化し、デジタル情報流通をフラットなものとしている。近年、SNSに投稿されるユーザー作成コンテンツ(UGC、User Generated Content)には表現の自由に配慮する一方、プラットフォーム事業者に対してはコンテンツモデレーションの可能性と程度が議論されるようになっている。一部では、アルゴリズムによるコンテンツモデレーションの自動化が進められ、その場合も含めて情報の区分・種類の設定・確認がコンテンツモデレーションの方向性を決めるもののように論じられることが多い。
 情報の生成・加工・改変・複合の主体とその意欲、過程を踏まえたInformation(正情報)、Mis-information(誤情報)、Dis-Information (偽情報)、Mal-Information(詐情報)、Un-information(非情報)などの情報の区分・種類について、いま一度、関係文献等を吟味し、考察を加える。このとき現在の図書館の理念と図書館情報学の理論のありようについても言及する。

16:45-17:15 発表(5)
奄美群島日本復帰後(1953(昭和 28)年~1964(昭和 39)年)奄美日米文化会館の文化活動に関する考察−鹿児島県立奄美図書館「奄美群島日本復帰 70 周年記念 令和 5 年度郷土コーナー企画展」をもとに−
工藤 邦彦(別府大学文学部司書課程)、山下 菜萌子(鹿児島県立奄美図書館)

 鹿児島県立奄美図書館では,奄美群島日本復帰70周年を記念して『文化の殿堂 奄美日米文化会館~戦後の図書館はここからはじまった~』(会期:2023(令和5)年12月9日~2024(令和6)年1月24日)と題した「令和5年度郷土コーナー企画展」(以下,「企画展」)を開催した.
 発表者は「企画展」を監修したことを受け,日本復帰前の沖縄・奄美に6か所設置された琉米文化会館(奄美に限り当初は大島文化情報会館と称した.)および復帰後の後継施設である奄美日米文化会館の歴史的意義について再評価する.
 これまでの先行研究において沖縄や奄美の図書館は,琉球列島米軍政府および米民政府(United States Civil Administration of the Ryukyu Islands:USCAR)によって米国流の図書館制度をもとに運営がなされており,その功罪が明らかになった.また,沖縄と奄美は地勢上一括りにされがちではあるが,占領期間の長短に差があることもあり似て非なる点が多い.復帰前,名瀬市(現在の奄美市名瀬)に設置された奄美琉米文化
会館は,復帰後に「奄美日米文化センターに関する協定」(1954(昭和29)年5月11日制定)に基づき奄美日米文化会館に改称された.奄美日米文化会館は,戦後本土各地に設置されたCIE図書館から1952(昭和27)年4月の日米講和条約発効後に運営を引き継いだアメリカ文化センター(ACC:American Cultural Center)の類縁機関である日米文化センター(JACC:Japan-America Cultural Center)と運営面で繋がりがみられた. さらに,1958(昭和33)年4月,鹿児島県立図書館奄美分館(以下,奄美分館)が設置されたことを契機に併設での運営へと移行した.
 本発表では,復帰前後の図書館のあゆみを概観し,奄美日米文化会館の文化活動を考察する.考察の対象期間は,奄美琉米文化会館の活動が閉じる復帰時(1953(昭和28)年12月25日)から1964(昭和39)年9月に奄美分館が新館へ移設するまでとする.考察には,奄美分館の後継にあたる鹿児島県立奄美図書館が所蔵している『奄美分館長室保管資料群』から関連の資料を用いる.
 具体的には,以下に関する文化活動の考察結果について触れる.映画を上映した講堂(図書館ホール),巡回映写を開催した学校や刑務所,療養所といった視聴覚教育が行われた「場所」に注視し,奄美日米文化会館の果たした役割について言及する.

17:15 閉会の言葉

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