西日本図書館学会 令和6年度秋季研究発表会
発表概要

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13:35-14:05 発表(1)高等学校国語科(論理国語)における読書指導~黙読・朗読の実践を通して~
/ 上釜 千佳(鹿児島高等学校・鹿児島城西高等学校)

 論者は、2校(鹿児島高等学校、鹿児島城西高等学校)で国語の非常勤講師として高校2年生の「論理国語」を担当している。高等学校学習指導要領解説(平成30年告示)の中で、読書について、「読書は、時間や空間を共有しない他者の意見や考えに触れる機会である。直接、意見を交わし合えない他者とも、読書を通じて互いの思考の過程を比べ、意見を交流することが可能となる。そうした批判的な読書の経験を重ねることで創造的な思考力が養われ、新たな認識が生まれ、これまでにない価値の創出やパラダイムシフトにつながる可能性がある。」 と記されている。「生涯にわたる読書習慣の基礎を築き、社会人として、考えやものの見方を豊かにすることを目指している。」 のだ。この目標を達成するために、論者の取り組みとして、授業内で黙読と朗読をおこなった。実践報告から見えてきた効果や課題について発表していく。

 高校生と読書について、全国学校図書館協議会の2023年の第68回調査の結果では、2023年5月1か月間の高校生の平均読書冊数は、1.9冊、高校生の不読者(5月1か月間に読んだ本が0冊の生徒)の割合は、43.5%となっている。 第五次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の中では、1か月に本を1冊も読まない子どもの割合について、令和4年度に、第四次基本計画において、高校生を 26%以下とするという目標を掲げたが結果としては、 51.1%だった。 ここから見えてくるのは、不読率の割合が高く、2人に1人は読書をしていないこと、改善が図れていないということだ。このような状況の中、授業を通して、学習指導要領で言われている「生涯にわたる読書の基礎」はいかにして作れるのだろうか。まずは、読書に対して親しみをもたせたいと考え、授業の初めの時間に黙読と朗読をおこなった。実践を通しての効果はもちろん、問題点も見えてきた。授業内での読書指導の限界や、教員として学校図書館をどのように活用していくのか検討していくとともに、読書によって育まれる力、読書の可能性、学校図書館の展望についても考察していきたい。

14:10-14:40 発表(2)「追放図書」に対する没収指定の影響
/ 川戸 理恵子(鹿児島女子短期大学)

 鹿児島県立図書館では「追放図書」と呼ぶコレクションを所蔵し、『追放図書目録』と称する目録も作成している。このコレクションは、GHQが軍国主義の内容等を含む図書に対し没収指定を行い、そのリストをもとに各所で行われた没収・焚書の影響が公共図書館へも及んだ時期に同館で「追放」したとされる図書群である。このコレクション及び目録に関し、発表者は昨年、『追放図書目録』(1993年発行)について書誌事項をもとに整理し、分類・出版年・著者・出版社等からの特性の把握を試み、本学会でも発表を行った。その調査過程において、特定主題(分類記号)箇所を宣伝用刊行物と比較したところ、半数が没収指定と合致していた。GHQが没収指定した宣伝用刊行物は7,700余種であり、同館の目録(1993)にもとづく追放図書はおよそ700種である。先行研究では、この追放図書の中で宣伝用刊行物として没収指定されたものは3分の1ほどとされるものの、その詳細は公開していない。いずれにせよ、これらの割合が事実であれば、その多くは当時の自己規制により「追放」されたということになる。

 そこで、本発表では『追放図書目録』とGHQが指定した宣伝用刊行物とを照合することで、それらが合致する割合を改めて確認しながら、合致せず自己規制として処理されたと推測されるものの傾向について考察するものである。

14:45-15:15 発表(3)帝国図書館による他機関への貸出の量的実態
/ 仲村 拓真(山口県立大学)

 本研究の目的は,近代において,帝国図書館が他機関に対して行った貸出の量的な実態を明らかにすることである。

 帝国図書館は,1872年に設置された,日本初の官立図書館である文部省書籍館を前身とする。近代日本において,帝国図書館が果たした役割は計り知れないことから,図書館史研究やメディア史研究では,帝国図書館は重要な研究対象と見なされ,多くの検討がなされてきた。たとえば,帝国図書館における利用実態について,利用者の属性や,利用された資料の傾向などが明らかにされてきた。

 しかし,既存の研究では,個人を対象とした貸出が中心に取り上げられてきており,どのような機関あるいは施設に対して,貸出を行ってきたかは整理されてきていない。実際には,帝国図書館に関する文献を参照すれば,さまざまな機関が,帝国図書館と書類を交わし,機関の事業のために,資料を借りていたことを把握できる。その機関のなかには,役所や大学のほか,図書館も含まれており,東京府以外の府県や,海外に属する機関も確認できる。他機関への貸出の実施は,帝国図書館が,国内外の機関の事業に貢献していたことを意味するものであって,帝国図書館の存在意義を理解するうえで,見落とせない活動であると捉えられる。

 そこで,本研究では,個人への貸出ではなく,他機関への貸出に着目し,その実態を整理し,考察する。具体的には,(1)どのような機関が資料を借りていたのか,(2)どのくらい資料が借りられていたのか,(3)どのような資料が借りられていたのか,の3点に着目し,分析を行う。

 本研究は,文献研究である。本研究では,次の文献を主な史料とする。まず,『官報』に掲載された「帝国図書館月報」欄,『帝国図書館年報』などの帝国図書館による刊行物を活用する。これらの文献には,貸出をした機関名や貸出冊数が,月毎,あるいは年毎に整理されている。併せて,帝国図書館に関する事務資料群である「帝国図書館文書」のうち,「書籍貸与関係書類」を参照する。この資料には,他機関が帝国図書館に送付した貸出関係の書類が綴られており,貸し出された資料のタイトルや冊数が記録されている。以上の文献を中心に確認することで,帝国図書館による他機関への貸出の量的な実態を詳らかにする。

15:30-16:00 発表(4)レファレンスツールとしての国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索の利活用 長崎唐八景公園「大砲巌之碑」の調査事例から
/ 森 茂樹(長崎県支部)

 長崎市にハタ揚げの名所として市民に親しまれている「唐八景公園」がある。その片隅に、何か痕をとどめ巌(岩)、その横に碑文も建立年月日も不明な石碑が案内板も無く設置されている。発表者は、長崎市の文化財保護サポーターとして、その石碑の清掃作業に参加し、清掃作業の中で、石碑上部に「大砲巌之碑」らしい文字が現れ、高島秋帆に関係する石碑らしいことが推定できた。

 発表者は、国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索の機能等を利活用し、これらのキーワードを手がかりに、この石碑の建立の理由、建立年月日、碑文等が判明することが可能ではないかと考えた。

 国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索を最初のアプローチとした検索結果が意外な文献のヒット、より具体的なキーワードの発見となった。このことは、レファレンス戦略を立てる際に質問内容の分析、検索キーワードの設定などの参考になり、同時に、その結果を基に関連する他の検索キーワードの手がかり、広がりができ、別のデータベース検索での追加調査と繋がっていった。

 今回の調査結果、この巌と石碑が、高島秋帆が幕末時代、田上合戦場(長崎唐八景公園付近)で砲術演習を行った際、大砲の弾痕をとどめた巌(岩)と、それを記念して碑を建立した「大砲巌之碑」であることがほぼ判明した。

 今回の発表は、国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索の概要を紹介し、この不明石碑の調査過程を事例に、最初にアプローチするレファレンスツールとしての有用性と課題を報告する。

16:05-16:35 発表(5)公共図書館のメンタルヘルス・サービス機能について考える
/ 山本 順一

 現在、明年度にY出版社からから新しい図書館情報学のテキストを出版しようと、関係者ともども作業を進めている。その1章で‘図書館の自由’=‘知的自由’を取扱う。本文を当学会会員のY先生にお願いし、そこのコラム記事をやはり当学会員のN先生が担当される。N先生のコラム記事では、津久井やまゆり園事件とその裁判過程を題材とした出版物、『開けられたパンドラの箱 :やまゆり園障害者殺傷事件』(創出版、2018)をめぐる公共図書館における選書、受入れ、資料提供に対する一見もっともらしく見える自閉症児を育てている社会福祉を専門領域とする大学教員の難癖とこの国の図書館界の対応について書かれた原稿に接した。

 そしてわたしは、はたと思い出した。アメリカの公共図書館では、自閉症児だけでなく、発達障害、ADHD(注意欠陥多動性障害)などのメンタル面に障害をもつ子どもたち――やまゆり園で死刑囚となっている植松聖に刺殺された人たちと同様――を対象とする児童サービスが広く展開されるに至っている。

 今回の発表では、児童を超えて成人についても、また図書館利用者だけでなく、メンタル障害をもつ図書館職員をも対象に含めて、この研究発表会に参集するみなさんと一緒に考えてみたい。この国にはほとんどないが、アメリカなど海外の図書館情報学文献と関係するウェブページは少なくないので、それらを素材とする。

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