西日本図書館学会

平成28年度春季研究発表会

場所:サンメッセ鳥栖(鳥栖市)

日時:6月18日(土) 15:30~17:00

 

15:30 公立学校のホームページと学校図書館 2015年度

発表者:原田由紀子(島根県立大学(非))

学校図書館にとって2015年度は新たなスタートの年となった。

学校図書館法の改訂があり、これを受けて教育委員会では学校司書の雇用を新規で始める、学校図書館支援センターを設置する、などの動きがみられた。これらは、次期の学習指導要領の改訂とも関連して教育行政全体に、子どもたちの情報活用力(リテラシー)を育てるツールとしての学校図書館およびICTの活用に対する関心が高まってきたと考えられる。

発表者はこれまで教育行政の中で学校図書館の支援スタッフとして多くの学校へ出向き図書館を活用する学び方やその指導の現場から学ばせていただいた。職を離れてからそうした学校の「今」を知る術はインターネットだけであり、発信された情報を「全て」として受信している。

学校教育では、図書館の活用を通して情操を培い情報活用力を育て、さらに地域との連携につなげようとしている。このうちの「情報活用力の育成」が授業で行われるとき、ウェブを子ども達の伝える活動として「情報発信」のツールに利用する、あるいはウェブ情報を探索して「教材」として適切な情報を選択して活用するという展開がある。子どもたちは受信した情報を「いつ発信されたもので今も生きている情報なのか」と確認する。つまりそこに情報としての価値判断や信憑性などの重要な選択基準がある。紙媒体であれば「著作日」はどのページも共有するが、ウェブ媒体の場合は何時でも1ページの1文字から上書きができ、その度に「更新日時」が変わる。

学校現場の忙しい中でも学校ホームページは「お知らせ」の他、行事などの具体的な「活動の様子」が更新されている。閲覧するうちに、こうした教育活動の根拠となる「教育目標」や「学校経営方針」についての情報の更新は重要なことではないかと気付いた。

そこで、学校情報の発信を視点に「教育目標」等の掲載の有無およびそれらと図書館活用等の位置づけ、そして学校図書館を視点に「図書館の活用に関連する文言」の分量を調査することを考えた。学校図書館を活用した教育活動を自治体として取り組んでいる7つの市区を選び、そこで所轄する全ての公立小中学校のホームページを対象とし、掲載された文言を探し、その位置づけを分類し、その結果から「各自治体における2015年度の図書館を活用する教育にかかる発信状況の特徴」としてまとめることを試みた。

今後、今回の調査を初回として経年で比較していきたいと考えている。

 

16:00 子どもの情報および資料へのアクセスとその制限について ―子どもの権利条約第12条、第13条および第17条の意義および相互関係を中心にして―

発表者:藪本知二(山口県立大学)・安光裕子(山口県立大学)

子どもの権利条約(以下「条約」)は、子どもの意見表明権(第12条)を条約が定めている4つの一般原則(その他に、差別の禁止(第2条)、子どもの最善の利益(第3条)、生命、生存および発達に対する権利(第6条))の1つに位置づけている(国連・子どもの権利委員会「定期報告書ガイドライン」)。

子どもの意見表明権は、子どもの最善の利益を探求するための手続的権利であり、子どもの自律性と社会性を育むための、社会における個人としての成長・発達を保障する権利でもある。

この意見表明権を支えるために、換言すると、この意見表明権を実質化するために、条約は、様々な権利を保障している。表現の自由の権利(第13条)や多様な情報源からの情報・資料の利用の権利(第17条)もまた、そういった権利である。しかしながら、この意見表明権の実質化を妨げる虞のある重大な障壁がある。表現の自由に一定の制限を課すことを認める規定(第13条2)や有害情報からの子どもの保護規定(第17条(e))である。これらの制限規定や保護規定を理由にして、表現の自由および情報・資料の利用に関する子どもの権利を直接的に制限したり、表面的には子どもの保護を目的とするが、実質的には子どものみならず大人の表現の自由や情報・資料の利用を制限する障壁が築かれる虞があるのである。

そこで、第12条、第13条および第17条の制定過程を辿りながら、また制定後の子どもの権利委員会の一般的意見や特別報告などを踏まえて、これらの各条項の意義を明らかにするとともに、各条項の相互関係を明らかにする。とりわけ、例外的に認められる情報・資料へのアクセス制限の手段・方法を明らかにしたい。

以上は、今後予定している「子どもの権利の保障に資する公立図書館の役割・機能に関する調査研究」のための基礎的な研究となるであろう。

 

16:30 養成課程で扱われる知識・技術に対する司書教諭の認識:聴取調査の結果分析

発表者:小田光宏(青山学院大学)・庭井史絵(青山学院大学大学院・博士後期課程学生)・仲村拓真(青山学院大学大学院・博士後期課程学生)・堀川照代(青山学院女子短期大学)・間部豊(帝京平成大学)

本発表では,司書教諭養成課程で扱われている知識・技術に対して,実務に携わる司書教諭がどのような認識を有しているか,インタビュー(聴取)調査の結果分析を報告する。これは,科学研究費補助金に基づく「学校図書館職員の技能要件と資格教育のギャップに関する実践的研究」(平成26-28年度,研究代表者:小田光宏)の,第二段階の研究成果に相当する。研究の第一段階では,司書教諭/司書の養成において扱われていると考えられる知識・技術を,テキストブックの分析を通して整理し(以下,「一覧」」,それらが実際の教授内容と一致しているかどうかを確認するために,教育担当者の認識を確認した。その結果は,本学会の平成27年度春季研究発表会において,「司書教諭養成で扱われる知識と技術:テキストブック記載内容に対する教育担当者の認識」と題して報告した。

本発表の内容の基盤となる研究の第二段階は,第一段階で得られた「一覧」に基づき,インタビュー調査を通して,現職の司書教諭の認識を把握することを試みた。具体的には,「一覧」中の各知識・技術に対して,「学習する必要」と「実務での活用」について尋ねる「記入シート」を作成した。その上で,インタビュー調査の対象者を選定するために,過去10年間を視野に入れ,学校図書館の活動実績を,複数の専門誌に執筆した者,あるいは,複数の研究会等で口頭発表を行なった者をリストアップした。その中から,勤務先の学校の校種・設立母体を考慮しながら,8名の司書教諭を選定した。選定した司書教諭には,「記入シート」を前もって送付して回答を求めた。インタビューでは,その結果を整理したものを確認しながら,認識の背景にある事情や理由を明らかにすることを試みた。

また,「一覧」に登場しないが,実務において必要と意識される知識・技術を指摘してもらうよう求めた。

本発表では,このインタビューで得られた結果に対して,二つの点でのギャップに着目し,分析した成果を報告する。一つは,「学習する必要」と「実務での活用」の認識の間のギャップであり,どのような知識・技術にギャップがあるのか,その背景となる事由を含めて考察した結果を詳述する。もう一つは,「一覧」の内容と,実務で求められる知識・技術との間のギャップである。これについては,インタビュー対象者から指摘された,「一覧」に登場しない知識・技術に関する検討結果を提示する。