平成26年度 春季研究発表会 2014年6月28日(土) サンメッセ鳥栖
14:15-14:45 大会議室2
原田由紀子(松江市学校図書館支援センター)
学校図書館支援センター機能に関する一考察
1 はじめに
現在、島根県内全域において取組んでいる学校図書館活用教育は東出雲町の実践がモデルである。2005年から東出雲町のひとつの中学校区の連携を軸とする図書館活用教育の小さな支援体制モデルを構築した。2011年8月に松江市との合併により「ひとつの支援体制」ができた。
県の施策と連携しながら取組んだ本市の学校図書館活用教育について「支援」を視点に考察する。
2 学校図書館活用教育の定義
2.1 学校図書館支援センター事業にかかる先進地視察等からの考察
先進校の司書教諭異動、千葉県市川市と袖ケ浦市等の視察から異動に左右されない地域全体のシステム構築が必要だと考えた。
2.2 東出雲町における「図書館活用教育」
支援の観点を「学校図書館を学校教育のための施設」と捉えることにより教員の図書館活用が波及した。
2.3 松江市における「学校図書館活用教育」
キャリア教育の視点を持ち、中学校区の連携による特長ある取組みを支援する体制を構築した。
3 学校図書館の過程
3.1 東出雲町
学校図書館は、倉庫状態から「身近な図書館」「使える図書館」「役に立つ図書館」「授業を支援する図書館」へと進化し「学校教育のインフラ」へ近づいた。
3.2 島根県
DVD作成の目的は「1学校図書館の業務の実際」「2読書活動の展開の仕方」「3学校図書館を活用した情報活用教育の進め方」「4学校図書館活用教育の校内推進体制づくり」である。
3.3 松江市
2012年度より授業における図書館活用の推進を重点に取り組む。2014年度から指導主事(講師)に司書教諭経験者とICT活用担当を加えて指導助言体制を強化した。
4 「支援」にかかる条件
4.1 東出雲町における支援
現場の「ニーズ」を知り、町内外へ「アピール」することで普及を図り、人的・物的な「ネットワーク」を構築する。
4.2 島根県における支援
「気運の醸成」「人的支援の充実」「物的環境の整備」を柱にした施策を展開した。
4.3 松江市における支援
「物流システム」による資料の確保と「小中一貫の連携体制」下で図書館担当の協働を促進し、学校図書館が「学校教育のインフラ」となることをめざすための支援を展開する。
5 「子ども読書県しまね」と松江市
5.1 司書教諭発令と学校司書配置
5.2 学校経営概要に見る意識
5.3 図書館と教科
6 まとめと課題
学校図書館の活用ならびに機能の充実について、島根県では義務教育担当課が主導的に関わることで今日の取組みに至った。
今後は、集積データを検証しさらなる支援の充実を図りたい。
14:45-15:15 大会議室2
山根薫(山口市立中央図書館)
市立図書館の利用度に影響を与える要因に関する試論
a.報告の目的と問題意識
行政評価制度の発達とともに、公共図書館でも、どうしたらより多くの市民に利用されるのかといった観点の重要性が増している。
そのことを考えるとき、どんな要因が図書館の利用度に影響しているのかを把握することは、施策を検討する上で非常に重要となる。しかし、利用度影響要因について定性的に語られることはあっても、定量的に分析された例は寡聞にして知らない。
そこで、日本図書館協会が全国の図書館を対象に行っている公共図書館調査のデータと、国勢調査等のデータを組み合わせることで、図書館利用度決定要因の定量的分析を行う。
b.分析手法と使用するデータ
分析は以下の手順で行う。
ァ.利用度を表す指標(利用度指標)を設定する
図書館の利用度を表す数値として年間貸出数と年間来館者数を採用することとし、それぞれ設置自治体の人口一人当たりの値を利用度指標とする。
イ.利用度に影響すると思料される要因のうち、数値データの取得が可能な要因の指標(影響度指標)を設定する
図書館のサービス水準と地域の特性の2つの観点から要因を選び出す。サービス水準については日本図書館協会の調査データから、地域の特性については国勢調査等のデータから影響度指標を設定する。
ウ.日本全国の市について、利用度指標を目的変数、影響度指標を説明変数として、重回帰分析を行う
全国の市ごとの利用度指標と影響度指標をすべて集計し、統計的に処理を行う。
エ.統計的有意性の高い影響度指標とその度合いを導出する
重回帰分析の結果から、貸出数・来館者数に影響するのはどんな要因で、それぞれどの程度影響するのかを検証し、有意な知見を見い出す。
c.分析結果
当日報告
d.まとめと今後の課題
当日報告
15:15-15:45 大会議室2
小田光宏(青山学院大学)・間部豊(帝京平成大学)
レファレンス質問に対応する公共図書館職員の変容
-2003年度調査と2012年度調査の比較に基づいて-
公共図書館において,レファレンス質問にどのような職員が対応しているかを,二つの全国規模の調査結果を比較し,その変容の状況を分析し,報告する。用いる調査は,2003年度に実施された全国公共図書館協議会によるものと,2012年度に実施された国立国会図書館の調査研究事業によるものである。前者は,「公立図書館におけるレファレンスサービスに関する実態調査報告書(2004年3月)」「公立図書館におけるレファレンスサービスの実態に関する研究報告書(2005年3月)」「公立図書館におけるレファレンスサービスに関する報告書(2006年3月)」に基づく。後者は,「日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望(2013年3月)」に基づく。報告の主眼となる職員の様態については,雇用形態(正職員か非常勤職員か),司書資格の有無に焦点を合わせる。2012年度の調査においては,さらに,委託等のもとでの職員(指定管理者制度やPFI制度などに基づいて雇用され,実務を行なっている者)の状況も確認する。こうした様態が,2003年度と2012年度とで,相違が見られるのかどうか,その変容あるいは異同に着目して考察する。ただし,2003年度調査と2012年度調査では,質問紙調査の点で同一ではあるものの,調査項目と調査対象に相違点がある。それゆえ,各調査項目を比較の対象にすることの妥当性を検討するとともに,公表されているデータを比較に結びつくよう加工して提示する。とりわけ調査対象に関して,二つの調査の間には,「平成の大合併」による,図書館の設置母体の変化がある。また,2003年度調査は,各地方自治体の図書館の「中心館」に回答を求めているのに対し,2012年度調査は,地域館・分館を含む全数調査となっていることを考慮した調整を行う。なお,発表者の小田光宏は,2003年度調査においてアドバイザーを務め,分析記事も著している。また,2012年度調査では,研究主幹として調査全体の統括を行い,研究チームを主導した。共同発表者の間部豊は,この研究チームの一員である。このように,発表者自身が調査に直接関わった利点を活かし,データを提示する際には,背景にある調査の趣旨や性質などを視野に入れて報告する。
15:45-16:15 大会議室2
宍道 勉
私の司書教育論
第1章 序論:講義へのモットー
鳥取短期大学司書課程で17年間に亘り司書養成に携わって来た.それを振り返って「司書教育」に就いて拙論を述べる.
1)教えない教育をする
学生が自ら学ぶことの意味を理解するのを待つ.
2)講義を楽しく
最低限必要なことは学生が楽しんで授業に参加できる(学ぶ)雰囲気作りである.ましてや講義の前に一斉に挨拶をするなど,受講生が萎縮するような高圧的威圧的態度を取らない.押しつけや強制の講義は学ぶ意識を削ぐと考える.
3)解説や説明をしない
専門用語その他言葉の意味を教えたり,その都度説明を加えない.専門用語は「図書館学基礎資料」(樹村房)や図書館専門資料の参照を,講義中に出会う知らない用語に備えてに絶えず辞書(漢和辞典と国語辞典)の携行を義務づけている.大学教育においてさえ言われている「分りやすく」や「易しく」を考慮しない.
4)試験をしない
現代の学生は試験のために教科書やノートの内容を覚えることに力を注いでいる.
筆者が講義の一コマ毎にレポートを課すのは,その日に学んだことについて学生が自ら問題点を振り返るためであり,課題はその日の講義の内容に関わるものである.つまりレポートとは学びの記録であり,それを「理解するための編集」である.
記録は,講義内容(「何を」)を「どこで」(学んだ場所),「いつ」知り得たか,記憶の再現を助ける.しかも自分の手で鉛筆(筆記用具)を使って「自分固有の」文字で書くことを求め,パソコンの利用を認めない.何故ならワープロ文書はコピー&ペーストで作られるから,オリジナリティに欠け自分の記録の証拠とならない.
第2章 司書科目の講義について
1.何を(目的)教えるか
図書館とは?司書とは何か?
1)図書館論
「経験主義」的図書館論と「観念」論的図書館論を考える
2)図書館司書の専門性
3)司書の学びの基本は図書館を利用すること
4)学び(生活)のリズム
話を聴く,板書や画像やビデオ映像を観る,本を読む,教師に意見を述べる(仲間と交わす),カードを作る,ノート(学びの記録)を取る,レポートを作成するリズムをつかむこと講義の単調さを排するための五感を使う学び方を伝える.
5)学びとは「独学」であること
6)読書の意味とその重要性
レポート課題の中に「書物を読む」ことを義務づけ,受講生が自ら読書の重要性を理解するように仕向ける.
2.なぜ教えるか
諸外国の司書に対する扱いと比べるとき,日本ではその「地位」が極めて低い.そこで社会的地位を上げる司書「教育」の「資質向上」に力を入れる.
3.いつ教えるか
筆者は毎回の講義一コマ毎に課題のレポートを出すことを求めている.大学あるいは公共「図書館」で「資料」を探し,調べ,まとめる.それによって「自ら学ぶ」ことの意味を教える.
4.どこで教えるか
講義室では不十分であり,目的となる職場の「図書館」利用を重視する.
5.どのように教えるか
-1 基本的なこと
教科書を使用しない.
1)自分のカードを持つ
2)講義ノートを付ける
プリントを与えるのは最小限である.
3)グループ学習
-2 講義科目
「講義」科目では予め1グループを5~6名で構成する.講義内容を話し合う.
-3 演習科目
司書科目の「情報サービス演習」では「個人」と「グループ」にそれぞれ解決する課題を用意する.
演習の結果はグループで検討した後,受講生全員が共有するために,全体の報告会をする.
6.司書教育はだれが
「司書教育」は図書館司書の「経験者」と「現在現場にいる」図書館司書,そして「図書館学」専門教員が「図書館学」理論と研究を目指す研究者を養成することになるのであろう.
7.まとめ
14:15-14:45 大会議室1
奥村治輝(学校法人活水学院)
司書養成新科目「図書館情報技術論」のテキストに関する一考察
平成24(2012)年度実施の司書養成新課程に基礎科目として新しく開講された「図書館情報技術論」。
実際に授業で使用されている教科書と参考書について、平成25(2013)年度に司書課程を開講した大学ならびに短期大学の各Web公開シラバスを使って調査した。その結果、『(ベーシック司書講座・図書館の基礎と展望2)図書館情報技術論』(齋藤ひとみ、二村健 学文社 2012.3)が多くの学校で教科書または参考書として採用されていたことがわかった。教科書調査については、調査年度(平成25年度)はこの科目が未開講の大学も多く、学校により開講時期が異なっていると推測される。またテキストも平成25年3月以降に次々と刊行された。これらも考慮して、継続した調査が必要である。あわせて、平成26(2014)年4月時点、この科目のテキストとして刊行されている5冊の書籍の内容(目次)と文部科学省が示した科目の内容(「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目一覧」)との比較・検討をおこなった。いずれの書
籍もほぼ文科省が示した内容を章立てした目次構成となっており、各章(内容)に対してほぼ均等にページを割り当てているものが多い。しかし、各書籍を節単位まで比較・検討するとその目次内容は大きく異なる部分も多く、各著者のこの科目に対する意識の相違も垣間見られた。
14:45-15:15 大会議室1
鄭俊如・高橋昇(九州女子大学)
図書館司書課程における情報技術の教育に関する検討
⑨ 情報化が進展する中、図書館への社会的要請の変化を踏まえ、平成24年4月より図書館法施行規則の一部改正を行った。今回の改正では、科目内容や単位数の見直しをすると共に、図書館業務に必要なネットワークに関わるサービスを提供できるための必要な知識等を教授する科目『図書館情報技術論』を新設した。本省令科目の学習概要は、「図書館業務に必要な基礎的な情報技術を修得するために、コンピュータ等の基礎、図書館業務システム、データベース、検索エンジン、電子資料、コンピュータシステム等について解説し、必要に応じて演習を行う。」と記載している。いわゆる、図書館業務における情報技術の利活用能力を育成することを重要視することになった。また、情報技術に関連する具体的な学習事項は、コンピュータとネットワークの基礎、情報技術と社会、図書館における情報技術活用の現状、図書館業務システムの仕組み(ホームページによる情報の発信を含む)、データベースの仕組み、検索エンジンの仕組み、電子資料の管理技術、コンピュータシステムの管理(ネットワークセキュリティ、ソフトウエア及びデータ管理を含む)、デジタルアーカイブ、最新の情報技術と図書館、となっている。しかし、「図書館情報技術論」の1科目で各学習事項を学べる深度は概要程度にとどまり、具体的な実現方法や構築手法の学習は、他の専門科目に頼るしかないと言える。本発表では、九州女子大学人間科学部で開設している情報関連科目や国家試験「ITパスポート」対策講座の内容を確認しながら、本学の司書課程における情報技術の教育について議論する。
15:15-15:45 大会議室1
森茂樹(活水女子大学図書館)
Microsoft Web PIとXooNIps-Libraryモジュールを利用した機関リポジトリ構築に関する一考察
-活水女子大学学術情報リポジトリの構築事例から-
活水女子大学では、Microsoft Windows Server 2012のIIS マネージャーと Webアプリケーションを迅速かつ確実に構築できる無償ツールであるMicrosoft Web Platform Installerを利用してXOOPSX(ten)をインストールし、その環境に理化学研究所脳科学総合研究センター、ニューロインフォマティクス技術開発チームの開発した「XooNIps」と慶應義塾大学メディアセンター(図書館)の共同プロジェクトで開発した「Libraryモジュール」を組み込んだシステムで機関リポジトリを自館で構築し、試験運用中である。
また、当初の論文コンテンツの登録については、国立情報学研究所の「学術雑誌公開支援事業研究紀要のコンテンツ提供」により紀要の書誌データと本文PDFの提供を受け、石井保廣氏(別府大学客員教授)作成の「アシスト君プッ」を利用し登録をおこなっている。
本発表は、本学のWindows版サーバにオープンソースを利用した構築事例をもとに、構築方法、システム環境、初期コンテンツの登録など自館で機関リポジトリを構築するために必要な事項、検討課題について考察する。
15:45-16:15 大会議室1
赤迫照子(宇部工業高等専門学校)
広島大学所蔵漢籍目録作成への過程 -目録の仕事を継承していくために-
広島大学所蔵漢籍目録作成への過程 ─目録の仕事を継承していくために─
⑩広島大学図書館は膨大な和漢書・古文書を所蔵しているが、原爆による被災と、昭和から平成にかけて四十年近く費やされたキャンパスの統合移転によって目録作成が滞ってきた。この状況をふまえて、平成17年、特別集書の目録作成を担当する部署として広島大学図書館研究開発室が設置された。発表者は平成19年度から21年度までの3年間、広島大学図書館研究開発室に助教として在職し、図書館所蔵漢籍の目録作成に取り組んだ。平成22年度には広島大学文学研究科研究員に着任し、24年度までの3年間、図書館所蔵漢籍の目録作成を続行するとともに、文学研究科所蔵漢籍の目録約1,300点を作成した。そもそも図書館所蔵漢籍のほとんどは文学研究科が蒐集し所蔵していたもので、平成6年、中央図書館(*注)の完成時に移管されたものである。このような蔵書の来歴を熟知し、再整理の必要性を以前より訴えてきた図書館長富永一登教授(文学研究科)と発表者は連携を図り、文学研究科所蔵漢籍を中央図書館貴重資料室・和装資料室に移管させる作業を行った。現在も一括された漢籍の排架作業を進めている。
発表者は平成20年度に東京大学東洋文化研究所にて長期漢籍整理研修を受講し、漢籍の伝統的な価値観に則った分類法「四部分類」を学び、目録作成のスキルを習得した。作成した目録の一部は雑誌に発表してきたが、利用者の便宜に供するには、全ての目録をまとめて冊子目録としなければならない。その出版及び所蔵本の研究を目指して東京大学東洋文化研究所に研究課題「広島大学文学部旧蔵漢籍目録作成のための研究」を申請したところ、採択され、今年度から2年間、東京大学東洋文化研究所の共同研究員となった。
本発表では、冊子目録出版への道筋が見えてくるに至った過程を報告するとともに、図書館における漢籍整理の必要性について述べる。近年、目録作成はなかなか光の当たらない仕事になっている。しかし、目録作成は本に真正面から向き合い、その本の特徴を把握するための大切な作業である。OPACや様々なデータベースは大変便利だが、一点一点がユニークな存在である和古書には、そぐわない面も存する。「全国漢籍データベース」ですら然りである。電子化・データベース化の流れの中で、如何にして目録作成の仕事を継承していくべきなのか、できるだけ具体的に検討したい。
*注 広島大学図書館は中央図書館・西図書館・東図書館・霞図書館・東千田図書館の5館がある。