発表要旨

14:15 ~ 14:45

生涯学習ビジネスと公共図書館 

橋本 あかり(桃山学院大学経営学研究科博士前期課程)

(概要) ‘教育’と‘学習’という言葉は、一見、同じような意味を持つ言葉のように思われる。‘教育’という概念は、教師が児童生徒学生に対して能動的に働きかけるだけでなく、最近ではまた児童生徒が双方向的に教育に参加する意味が付与されている。一方、‘学習’という理念は、特定の個人が一定の目標をもって、主体的に行うものである。

この研究発表でとりあげる「生涯学習」は、児童生徒学生のときだけでなく、就職、離職、退職など変化する職業生活において、女性が勤労から妊娠・出産、育児を行っているあいだ、種々様々な状況の中で、いつでも学ぶことが可能であり、学習をしたいと感じたとき、学校教育機関の中だけで完結するのではなく、学校教育が提供する正規教育の外で、市民が意欲さえ持てば容易に訪れることのできる、公共図書館や博物館、公民館でも主体的に行い得るものである。

生涯学習として提供されているメニューの中には、少なくないものが無償で提供されているが、有償で提供されているものも存在する。有償の‘生涯学習ビジネス’として提供するとすれば、その内容、形態、対象となるマーケット、そしてそのフィージブルな価格を本研究報告では検討することにしたい。このとき、インターネット情報環境の利用可能性については十分に考慮しなければならないと考える。

これまでわたしが司書課程で学んできた図書館情報学は、公共図書館が経済的にも、時間的にも余裕のない、ふつうの市民が主体的に勉強しようと感じたとき、気軽に利用できる生涯学習の場であることを教えてくれた。そこで実施されている生涯学習プログラムについてもいくつか検討し、その可能性についても十分な検討を行いたい。このとき、海外では公共図書館で有償の生涯学習講座を行っているところがあり、公共図書館と生涯学習ビジネスとのかかわりについても言及することにする。

14:45 ~ 15:15

公立図書館は、法的に、直接、金銭授受、営業行為をできないのか?

山本 順一(桃山学院大学経営学部・経営学研究科)

(概要)  2018年1月31日付けの朝日新聞の堺泉州版の紙面は、狭隘な阪南市立図書館において、廃棄基準にしたがって除籍する図書を市民に販売し、その収益を新規受入れの減資の一部にする‘リサイクルブック’の取組みを伝えていた。その記事を読み進むと、「図書館法で、図書館が直接本を売ることはできない。このため、図書館が置けなくなった本を‘本のリサイクル運営委員会に無償で提供。運営委が販売して収益で雑誌を買い、寄付するという」ことにした、と書かれていた。また、これはさる県立図書館の館長をされた方の2014年に刊行された著書には、管内のある直営の町立図書館が特定の図書を販売することにつき、「図書館の自由」の宣言の精神に反し、図書館運営の中であまりに程度の低い話で恥ずかしいという趣旨のことが書かれ、この事件で緊急に県内図書館関係者が集まりこの問題について協議した旨が書き添えられている。

どうやら、この国の図書館界では、図書館では物販はできない、あるいは少なくとも図書は図書館法の趣旨と定めにより販売できないとの理解が広がっているようである。しかし、アメリカの公立図書館ではライブラリーショップで多種多様なグッズが売られ、当然、図書も売られている。図書館友の会の販売に限られるわけではない。また、体制は異なるが、中国の公立図書館には新華書店が入り販売しているところもある。ひるがえって、現行図書館法制定に関与された西崎恵氏は『図書館法』(1950)で延滞料や汚破損の実費弁済を認めている。北海道のある公立図書館では、エントランスホール内の喫茶コーナーで、朝食の提供のほか、新鮮な地元産の野菜や加工品などの販売も行っている。

アメリカに眼を転じ、ニューヨーク公共図書館などでは、閉館時に施設を市民のパーティなどに貸出し、収益源としたりしている。

そもそも公立図書館では直接図書をはじめとする物販ができないのか、‘図書館友の会’や‘運営委員会’をダミーとして経由しなければならないのか、ツタヤのような指定管理なら大手を振って商品、サービスを販売できるのか、国内法とアメリカをはじめとする外国法の関係規定を検討するものとする。

15:15 ~ 15:45

鹿児島県の巡回文庫について―その成立時期を中心に―

濱田 みゆき(鹿児島女子短期大学附属図書館)

(概要) 日本初の公共図書館「京都集書院」が明治5年(1872)に設けられ、少し遅れて鹿児島県の公共図書館の歴史も始まる。図書館は、その時代における多様化した資料も扱い、日々その機能や姿が変わってきており、その歴史を振り返ることは、現在そして未来の図書館を考える上でも有意義であろう。

今回、利用者サービスの観点から、現在も鹿児島県立図書館で実施されている「貸出文庫」(昭8.巡回文庫を貸出文庫と改称、現在は車による配本は中止)の前身である巡回文庫の歴史を振り返ろうと試みたが、成立時期当時に関しては巡回図書目録や図書館報等の資料が見当たらない状況であった。そこで雑誌や新聞記事等で調査を行った。

その結果、従来、鹿児島県立図書館の成立以後とされてきた(『九州図書館史』、『鹿児島県立図書館史』)鹿児島県における巡回文庫の始まりが、鹿児島県立図書館設立以前の私立鹿児島図書館時代の明治43年頃から既に始まっていることが明らかになった(『鹿児島教育会雑誌』のち『鹿児島教育』)、『鹿児島県教科教育実践史資料』)。また、県立図書館蔵書に現存する私立鹿児島図書館時代の書籍にその痕跡を見出すことができた。

本発表では、巡回文庫の他県の状況や方式との比較や書籍構成の分析などを通して巡回文庫の成立時期の考察を行い、公共図書館黎明期の取り組みの一端に迫りたい。

 

16:15 ~ 16:45

公立小中学校のホームページと学校図書館 2015~2017年度

原田 由紀子(島根県立大学・非常勤)

(概要)  学校図書館が学校教育の中でどのように位置づけられ活用されているかを知るために、学校外から情報を得る簡便な方法は「ホームページの閲覧」である。本調査は、インターネット上で公開された情報から、各自治体で所管する小中学校における学校図書館の「位置づけ」や「取組の計画」について経年で閲覧することにより、学校図書館に対する「意識」がどのように推移したかを読み取り「自治体にみられる特色と経緯」として捉える試みである。また、ホームページの形式から、「学校図書館のページ」が学校のホームページとして公式に設置されているか等もみる。

本報告は、2015年度から2017年度までの調査結果を経過報告としてまとめたものである。

対象とした自治体は、2015年度時点に学校教育担当課(教育支援センター等含む)が中心となり学校図書館および学校図書館活用教育等を推進し、かつ所管する全ての小中学校(義務教育学校)のホームページを設置・公開している7つの市区(東京都荒川区、千葉県市川市、袖ヶ浦市、神奈川県横浜市、大阪府豊中市、岡山県岡山市、島根県松江市)を選んだ。

対象とする学校は「義務教育校」「小中一貫校」「分校」も含むが、小学校と中学校あるいは本校と分校で同じリンク先を設定しているケースがあった。これは、法制度上と運営上の違いに起因すると考えられる。そこで、対象数は、ホームページ上に挙げられた「全ての学校名の数」とし、リンク先とデータの重複を含み「学校数」と呼ぶこととした。各年度共に総数は830校あった。

学校においては、年度当初に、児童生徒の入学・卒業、教職員の異動等に伴いその年度の「教育目標」「経営方針」および担当人員が定まる。これに則って「年間計画」が立てられ、その具現が「授業」や「活動の様子」となる。したがって、学校の「経営方針」は、その年度の全ての活動の規準であり、特に重点課題に関連した文言は多く書かれていることになる。そこで、調査は、各校ホームページに直接アクセスし、公開された「経営方針」から「学校図書館活用にかかる文言」を拾い、これらの文言を文部科学省の学習指導要領に掲げられた教育の柱(いわゆる「確かな学力」「豊かな心」「健やかな身体」)に照らして分類し、その傾向を数値化してみるという手順で行った。

今回は、ホームページという媒体について、受信したデータのまとめに併せて、発信者のあり方についても触れる。

16:45 ~  17:15

公立図書館における子どものための情報リテラシー教育に関する基礎的研究

安光 裕子(山口県立大学国際文化学部)、藪本 知二(山口県立大学社会福祉学部)

(概要) 現代社会では、インターネットや情報端末などの情報通信技術の飛躍的な発展により、情報の発信および受信は、誰もが・いつでも・どこでも・簡便に、行えるようになった。その結果、情報爆発とでも言うような状況が現出し、情報空間は劇的に変貌した。この情報空間には、事実に裏付けられた情報だけでなく、虚偽の情報や悪意に満ちた情報、煽情的な情報など多種多様な情報が混じっている。

この情報空間の中に否応なく存在する子どもたちは、情報リテラシーを身につける前に、横行するフェイクニュースなどの歪曲された情報に接する機会が増えている。この危機的な状況に対応するためには、子どもが自らの権利として必要な情報にアクセスし、アクセスした情報を正しく評価し、活用する能力、すなわち情報リテラシーを身につける必要がある。

しかしながら、子どもがこの情報リテラシーを学習して、身につける場は、現在の学校教育では十分とは言えない。学校以外に、この場になり得るのは、社会教育機関である公立図書館である。

そこで本研究では、これまでの研究(安光裕子・藪本知二「公立図書館における情報・資料への子どものアクセス保障に関する基礎的研究―山口県内での実態調査をふまえて―」『図書館学』111号(2017年)28-37頁)を一歩進めて、山口県内の公立図書館を対象とする子どものための情報リテラシー教育に関する調査を行い、その調査結果から示唆を得た公立図書館における情報リテラシー教育に資する図書館サービスについて発表する。

17:15 ~ 17:45

Webシソーラスを使用した情報検索演習:JSTシソーラスmap、ライフサイエンス辞書を例に

野村 知子(久留米大学・非常勤)

(概要) 久留米大学文系キャンパスで開講されている情報検索演習科目におけるWebシソーラスを用いた検索の実践事例報告。この授業では基本的な情報検索スキルの習得を目標として、オープンソースの複数データベースを使用した演習を行っている。文献検索には検索語として、自然語、優先語を用い、シソーラスを使用してディスクリプタを選択する検索をおこなう。シソーラスは、オープンソースのJSTシソーラス(科学技術振興機構)、ライフサイエンス辞書(ライフサイエンス辞書プロジェクト)を用いる。

17:45 ~ 18:15

奄美分館長・島尾敏雄における郷土資料の収集整備

工藤 邦彦(別府大学文学部司書課程)

(概要) 島尾敏雄(以下、島尾と記す)は、昭和30(1955)年12月から約20年間、妻であるミホの出生地に近い奄美大島名瀬市(現在の奄美市)に居住した。その間、昭和33(1958)年4月、鹿児島県立図書館奄美分館長(以下、奄美分館・分館長と記す)に就任し、昭和50(1975)年4月まで館長職を務めた。当時の島尾には、①「作家としての島尾」②「教師としての島尾」③「郷土史家としての島尾」④「図書館長(日米文化会館および奄美分館の館長職)としての島尾」という4つの側面があった。

島尾が在職中に力を注いだ仕事には、集落(シマ)の隅々まで本を届けるための貸出文庫編成および読書活動推進事業と奄美に関する郷土資料の収集整備の二点がある。前者は拙稿(奄美分館長兼日米文化会館長 島尾敏雄の仕事:生誕100年遺された日記を読み解く. 『図書館学』2017. No.111 p9~19)で検討した結果、鹿児島県立図書館(本館)長であった久保田彦穂(=椋鳩十)の意向に沿うもので島尾自身が創案した奉仕業務とは言い難い。

一方、後者の郷土資料の収集整備を本格化するにあたり、島尾は昭和31(1956)年、文英吉奄美日米文化会館長を中心に結成した史談会を継承し、文の急逝後に自身の舵取りで業務を軌道に乗せたと考えられる。なかでも、奄美分館内に事務局を置き、新たに発足した奄美郷土研究会との結びつきを深めることで、郷土資料の収集整備が進捗したと見受けられるが、これまで十分な検証がなされてこなかった。

よって、本研究の目的は、③「郷土史家としての島尾」および④「図書館長としての島尾」の二つの側面から、奄美郷土研究会の活動を通じ、如何にして郷土資料の収集整備を図ったかを明らかにすることである。具体的には、奄美分館における島尾の収集整備について、「島尾直筆日記(複写)」の記載内容をもとに「昭和30年代」(第1期:名瀬市井根町・旧奄美分館時代)、「昭和40年代前半」(第2期:名瀬市小俣町・新奄美分館時代)、「昭和40年代後半」(第3期:島尾が交通事故に遭った後の“気鬱”の時代)に分け検証する。

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