研究発表概要

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14:00

庄 ゆかり(広島文教女子大学人間科学部)・岡本恵里香(広島文教女子大学附属高等学校):学生がプログラムを作るアクティブラーニング型図書館実習の実践報告

(概要) 司書科目のうち、情報サービス演習・情報資源組織演習は、演習を通して実践的な能力を養成することを目的としている。実践的な能力とは、課題を理解し、状況を分析し、解決策を考え、その実現のため具体的に行動することができる高度な能力である。しかし、課題演習により実践的な能力が育成できているかどうかを判断するのは難しい。学生にとっても、個々の演習内容が図書館サービス全体にとってどのような意味があるのかを実感することは困難である。

広島文教女子大学司書課程では、学習者が主体的・能動的に学修に参加するアクティブラーニング型の学びが実践的な能力養成に有効だと考え、平成28年度後期、4年生13名を対象に、高等学校図書室において、アクティブラーニング型図書館実習を実施した。目的は、司書課程での学び全体を統合して図書館業務へと活用する力を養うとともに、図書館サービスの向上には何が必要か、経験をもとに考えさせることである。実習期間内に行うべき業務は教員と司書教諭が協議の上決定し学生へ指示したが、学生の主体性を引き出すために、工程の作成や体制作り、進捗管理、報告書作成等の業務内容の分析や業務計画の作成・進行については学生に一任した。学生は、これまでの学びを活かしながら、協働により期間内に必要な業務を終了した。

本発表では、実習後のレポートや教員の観察をもとにして、アクティブラーニング型図書館実習の成果と、この実習により明らかとなった課題について報告する。

14:30

木村修一(北海道武蔵女子短期大学):学生の主体的・協働的学びを仕掛ける「図書館サービス特論」(演習)の授業とその評価について

(概要) 平成24年の新課程科目の設置に伴い「図書館サービス特論」(選択科目)を開講した。この授業では、児童サービスの中から「ブックトーク」および「フロアワーク」を主に取り上げた。子どもに向き合う状況を実際につくり、絵本を伝える方法を学生自身が考え演じる演習科目である。本発表では、授業展開の要点を紹介しながら、人的支援に寄り添い知を創出するプロセスにおいて学生が何を感じ学んだのか、学生アンケートをもとに分析する。

➀ブックトーク

本学付設の児童図書室を会場にブックトーク披露会を開催する。グループでテーマを選定し実演のための全体シナリオを作成する。各自の役割が決まったところでそれぞれの展開を個別シナリオに組み立てる。全体練習を経て子どもたちの前で披露する。子どもの年齢に応じた資料を選ぶこと、シナリオに沿いながら効果的に本を紹介することを到達すべき目標におく。ブックトークのテーマ決め、演出の工夫、作業の分担など、グループでアイデアを出し合いながらシナリオを完成に近づけていく過程を学生は楽しむ。話の内容が面白いもの、子どもと一緒に遊べるものなど、聞いてもらう子どもへの思いを巡らせ絵本を選書する。座学で学べない貴重な経験を学生は得る。

②児童図書室お手伝い

本学付設の児童図書室が開室している時間、週ごとにシフトを組みグループから一人お手伝いに入る。子どもに応対するフロアワーク、返本作業、書架整理、ブッカーかけなどを体験する。フロアワークの基本を身につけることを到達すべき目標におく。学生は子どもが実際にどのような本や物事に関心があるのかを知る。子どもとの会話や行動観察が情報源である。さらには、司書のお客さんへのふるまいから司書という仕事を学ぶ。

③二十歳の絵本処方箋

「二十歳の女性の心に効く」絵本を見つけるため、自分と対話しながら絵本を読み込み「心の効用」にまとめる。10冊の中から特に1冊を選びポップとともに閲覧室に展示する。絵本の価値観を見直すきっかけになることを到達すべき目標におく。学生自身の心に向かう「深読み」は、自分の心に処方される絵本を新しく発見する行為でもある。

15:00

工藤邦彦(別府大学文学部):奄美分館長兼奄美日米文化会館長 島尾敏雄の仕事:生誕100年遺された日記を読み解く

(概要) 作家・島尾敏雄[大正6(1917)年~昭和61(1986)年]は、平成28(2016)年に没後30年、平成29(2017)年に生誕100年と節目の年を迎え、敏雄・ミホ夫妻に関する多角的な研究がなされている。これまで館長としての島尾に関する業績は奄美日米文化会館および旧鹿児島県立図書館奄美分館(現鹿児島県立奄美図書館)刊行の要覧や業務報告書等の分析、島尾と同時期に勤務した職員の証言に基づき顕彰がなされてきた。しかし、平成19(2007)年のミホの死去を境に島尾が遺した日記類の公開により、戦後文学研究の見地から近年、島尾夫妻の評伝や作品に関する新解釈が発表されている。よって、島尾の図書館業務を検証するうえでも遺された日記をもとに分析することが必要と考える。

具体的には、島尾が“夫婦と家庭の再生”を期し奄美大島名瀬市(現奄美市)に移住し奄美分館長と奄美日米文化会館長に就任した時期に書かれた日記に着目する。文面から図書館業務に該当する箇所(“司書日記”)を読み解き、“兼務館長としての島尾の仕事”を詳らかにする。

名瀬における島尾は夫婦や家族の日常を取り戻すことに専心しているが、創作と図書館業務との両立、海外への渡航、療養生活をふまえると前・後期に分けることができる。前期はミホの心を癒し家族の平穏と経済的基盤を整えた最初の移住先である名瀬市住吉町居住時代(昭和30(1955)年12月から昭和40(1965)年まで)である。後期は奄美分館隣接の官舎住まいであった名瀬市小俣町居住時代(昭和40(1965)年11月の転居から館長を退任した昭和50(1975)年4月まで)である。本発表では前期・住吉町居住時代における“司書日記”の記載内容で注目すべき箇所を列挙のうえ、島尾の図書館業務に対する心情の発露を発見する。

16:00

宍道勉(鳥取大学非常勤講師):図書館利用者論ー教育から啓蒙へー

(概要) 発表者が図書館と利用者に直接,間接に関わって今年で奇しくも丁度50年になる.今回は自身の「利用者論」の変遷を辿りながら,締めくくりの利用者論を考える.

私が日本国内で初めて「利用者教育論」を発表したのが1976年,3年後に「理論」としてまとめた.そこでは司書としてレファレンス・サービス担当の「経験」から,質問の回答を提供することよりも,回答のプロセスを教えることが利用者の学ぶ意欲をもたらす効果があることに気付いたことがきっかけである.それは同時に「司書が教える」という点に意義があることを示したものである.当初は司書の主張に反論があったにも拘わらず,数年後「日図協」に「利用者教育委員会」が,そしてあろうことか現在も「図書館利用教育委員会」として成立することになった.しかしもはや司書が関わるどころか「利用教育ガイドライン」など「教師(教員)」が情報リテラシーを教えることが主眼であり目的となっている.時を同じくして「司書教育」が技術に重きをおくようになったのである.

本旨はそれに異を唱えない.「私の司書教育論(教えない教育)」(平成26年度西図春季発表)後の実践と理論的変遷,「教育から啓蒙へ」を述べる.

別の観点から言えば司書(図書館)と利用者(市民)の主客転倒である.いわば「受動的役割」でしかない市民(利用者)自身が社会(図書館)で「能動的役割」をも果たすことを狙いとする.いわば市民が自らの意識を変えるよう仕向ける(啓蒙)論理である。

16:30

安光裕子(山口県立大学国際文化学部)・藪本知二(山口県立大学社会福祉学部):公立図書館における情報・資料への子どものアクセス保障に関する基礎的研究

(概要) 国は、子ども(18歳未満の者)が国の内外からの多様な情報源からの情報・資料にアクセスすることができることを確保しなければならない。これは、児童の権利に関する条約(Convention on the Rights of the Chid)の締約国として国に課せられている義務である(児童の権利条約第17条)。

この義務を果たすために、国は、どのような方策をとればよいのであろうか。これは、児童の権利条約の実施(Implementation)に係る重要な事項である。

この義務は、国に課せられている義務ではあるが、国とは別に、日本においてこの義務の実質的な担い手の1つになるのが公立図書館であることは間違いないであろう。なぜならば、図書館法、社会教育法等の諸法令によって、公立図書館は、地方自治体が設置する「図書,記録その他必要な資料を収集し,整理し,保存して,一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーション等に資することを目的とする施設」であり、「社会教育のための機関」であると位置づけられているからである。このことは、公立図書館の利用者が大人であっても子どもであっても変わるところはないのである。

前述のとおり、情報・資料への子どものアクセス保障を児童の権利条約は国に要請しているが、その具体的な方策を明示しているわけではない。ましてや、公立図書館がとるべき方策を明示してもいない。そのため国は、特に行動計画を策定することもなく現在に至っている。また、図書館情報学においても、この条約が要請する情報・資料への子どものアクセス保障を公立図書館が図書館サービスにおいてどう実現すればよいかといった研究も、十分には展開されていないように思われる。

そこで本発表では、これまでの研究(藪本知二・安光裕子「児童の多様な情報源からの情報および資料の利用の確保について―児童の権利条約第17条の意義について―」『図書館学』109号(2016年)4-14頁)を一歩進めて、公立図書館における資料・情報への子どものアクセス保障に関する基礎的研究として実施した調査の結果を中心に報告するものである。

17:00

下川和彦(久留米大学大学院比較文化研究科前期博士課程):公立図書館年齢別貸出利用の動向

(概要) 1970年代以降一貫して伸びてきた公共図書館の貸出利用が、ここ数年減少してきている。日本図書館協会『日本の図書館 統計と名簿』で見ると、貸出冊数は、2010(平成22)年度をピークに減少に転じている。この現象は、住民のどのような図書館利用の結果なのか。

この報告は、人口25万人から35万人の中規模都市図書館の過去10年間の利用統計を使い、貸出利用減少がどのような年齢層の利用動向によるものであるかを調査し、変化の実態を明らかにすることを目的とする研究の中間的な報告である。経年的な統計を活用し、住民利用の実態を知ることは、これからの利用動向を見通し、図書館サービスのありかたを考える上で必要不可欠な作業である。

この研究を通して、図書館貸出利用減少の要因を考えるとともに、貸出利用に関わる統計方法の課題についても併せて問題提起をする。

17:30

大谷康晴(日本女子大学文学部):貸出サービスの製品ラインとしての予約サービスに関する検討

(概要) 『市民の図書館』の中で貸出サービスを成長させていくためのサービスとして読書案内と予約が取り上げられている。これらのサービスは、貸出を主軸とした上で一連のサービス群を形成しているため、『市民の図書館』では、貸出を軸としてマーケティングでいうところのサービスの製品ラインを形成しているとも評価されている。しかし、インターネットやウェブ技術の進展の結果、予約はきわめて容易に実施できるサービスとなり、実際に『日本の図書館』ではその著しい増大が確認できる。

一方製品ラインは、本来は長期的利益の最大化や組織の経営目的に合致させるために構築されていくべきものである。『市民の図書館』では図書館の基本的機能を「資料を求めるあらゆる人々に、資料を提供することである」とした上で、貸出を増大させて、利用者のニーズの深化をはかり、そして深化したニーズに対応したより優れたコレクション構築を行い、さらに貸出を増大させるという正の循環を意図した上で、貸出を中心とした製品ラインを構築している。サービスの製品ラインを設定するという比較的局地的な作業が全体の使命の達成に直結するように設計されており、経営の戦略としてきわめてすぐれたものであったといえる。しかし、膨大な予約件数の処理や近年の予約に対応するための設備の導入を見ていくと、『市民の図書館』が設定したような戦略的な思考がないまま、ただ予約に対応しているだけではないかという疑問が生じる。

本研究では、このような問題意識に立って、予約の増大が本当に図書館の使命達成に資するものとなっているのかを調べるものである。具体的には『日本の図書館』の統計データについて予約件数の増大分をベースに日本の図書館の整理を行い、予約サービスが図書館に資するものであるのかを見ていきたい。

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