西日本図書館学会
平成27年度春季研究発表会
(発表概要)

場所:サンメッセ鳥栖(鳥栖市)
日時:平成27年7月4日(土) 14:15~17:45

14:15 司書教諭養成で扱われる知識と技術:テキストブック記載内容に対する教育担当者の認識
発表者:庭井史絵(青山学院大学大学院・博士後期課程) 小田光宏(青山学院大学) 仲村拓真(青山学院大学大学院・博士後期課程) 堀川照代(青山学院女子短期大学) 間部豊(帝京平成大学)

発表の概要:本発表は,司書教諭養成で扱われている知識・技術の範囲ならびに様態に関して,テキストブックの記載内容と,それに対する大学教員の認識に基づいて考察したものである。本発表は,科学研究費補助金に基づく「学校図書館職員の技能要件と資格教育のギャップに関する実践的研究」(平成26-28年度,研究代表者:小田光宏)の,初年度の研究実践に基づくものである。研究全体としては,司書教諭と学校司書に求められている能力(技能要件)に着目し,現行の司書教諭/司書の養成課程が,司書教諭/学校司書が必要とする知識・技術を獲得するのに適切であるかどうか(ギャップがあるかどうか)を分析し,ギャップが存在する場合には,その改善に資する知見を導き出すことを目的としている。

研究の第一段階となる初年度は,司書教諭/司書の養成において教授されていると考えられる知識・技術を同定することに取り組んだ。具体的には,養成のためのテキストブックを,目次を使って分析し,そこで扱われている知識・技術を抽出し,体系化を試みながら一覧できるように整理した。つぎに,作成した一覧表が,実際の司書教諭/司書の養成において行われている内容と一致しているかどうかを確認するために,教育担当者の認識を把握するための聴取調査(インタビュー)を実施した。
本発表では,研究の第一段階で得られた成果のうち,司書教諭養成で扱われる知識・技術に関して,テキストブック記載内容に対する教育担当者の認識の様相と傾向を報告する。まず,司書教諭養成のためのテキストブックとして,養成の5科目を個別巻として刊行している5社6シリーズ,計30冊の記載を分析した結果を紹介する。その上で,教育担当者が,抽出された知識・技術に関してどのような認識を有しているかを,その状況を聴取調査の結果に基づいて指摘する。
研究全体では,司書教諭養成の課程のみ開設している2大学,司書教諭と司書養成の双方の課程を開設している4大学,司書養成の課程のみ開設している2大学の計8大学の教育担当者8名を選んで聴取調査を行なっている。本発表では,司書教諭養成の課程を担当している教員6名に対する調査結果に絞った考察結果を示す。

14:45 司書課程カリキュラムのジェネリックスキル育成の可能性
発表者:畑田秀将(尚絅大学文化言語学部)

発表の概要:尚絅大学文化言語学部では、社会人に求められるジェネリックスキルを測定するため平成26年度より新入生全員と一部の上級生を対象にPROGテスト(学生基礎力測定テスト:Progress Report on Generic Skills)を実施している。基礎力の底上げと弱点の克服を学部の初年次教育から段階的に行い、数年後の能力を比較することができる。
このPROGテストは、リテラシーとコンピテンシーの2つの観点から測定し、ジェネリックスキルを数値することによって、学生が自己に必要な科目やプログラムの履修を選択するための1つのツールなっている。ただし、その選択の基準は、既存の科目をジェネリックスキル育成のためのメニューとして用意したものであるために、段階的に能力を引き上げるものとしてはプログラムの構築には工夫を要する。特にジェネリックスキルは社会人としての基礎的な実践力を要求されているため、座学中心のカリキュラムを持つ学部にとってみればどうしても限界もある。
そこで、司書課程のカリキュラムと連携した効果的な取り組みを形にすることがより効果的であると考えた。そのためには、PROGテストの結果の分析とプログラムの構築が必要となろう。
本発表では、司書課程のカリキュラムがジェネリックスキル育成にどれほど貢献することができるのかという問題意識の下、まずはPRGOテストの分析を通して、学生の能力の傾向と司書課程のカリキュラムにおいて能力向上が期待できる科目・授業内容について考察した結果を明らかにしたい。

15:15 司書に必要な情報教育: テキストマイニングによる司書課程学生のイメージ分析
発表者:庄ゆかり(広島文教女子大学)

発表の概要:情報活用能力育成のために、小学校から発達段階に応じた情報教育が行われており、学習内容にはコンピュータの構成やデータベース、コンピュータシステム、ネットワーク等についての基本的な知識が含まれている。つまり、大学生は、情報活用に必要とされる一般的な情報技術に関する基礎知識の学習経験があると考えられる。
一方、司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目は、図書館における専門的職員として図書館サービス等を行うための基礎的な知識・技術を修得するためのものであり、資格取得の後、業務経験や学習などを通じて司書としての能力を高めて行くための基盤を形成するものと考えられている。そのうち、基礎科目のひとつである図書館情報技術論では、「図書館業務に必要な基礎的な情報技術を修得するために、コンピュータ等の基礎、図書館業務システム、データベース、検索エンジン、電子資料、コンピュータシステム等について」解説および必要に応じて演習を行うこととなっており、一般的な情報教育の内容との一部重複を指摘する学生も存在する。
本研究は、専門職司書にとって今後の業務・研修の基盤として特に重要な情報技術について、司書課程の学生が持つイメージを調査する。方法として、「司書に必要な情報教育とは何か」をテーマに学生が作成した図書館情報技術論期末レポートをテキストマイニングにより分析し、知識として学ぶべきものは何だと考えているか、また図書館業務における情報技術の役割をどのように捉えているかを明らかにする。また、分析結果をもとに、図書館情報技術論の授業デザインについて考察する。

15:45 休憩

16:15 大学図書館ピア・サポート制度導入への期待と課題:本学の事例から
発表者:山中秀夫(天理大学総合教育研究センター)

発表の概要:天理大学学内研究助成を得て,2014年度に本学大学図書館・情報ライブラリーにおいて「ピア・サポーター」を試行した。本発表では実施によって得られた成果と課題について報告する。 教育機関へのピア・サポート制度導入の古く,10年ほど前から大学図書館への導入も始まっており,多くの大学図書館で実施されている。他方,大学図書館に関して,中央教育審議会(平成20(2008)年)の『学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)』においては,「自らが立てた新たな課題を解決する能力」を中心とする学士力の育成が課題として提示され,学生が自ら行う調査,学習のための基礎資料の整備を含む学習環境を充実する観点から,これまでも学習の場として活用されてきた大学図書館の貢献が一層期待され,自ら学ぶ学生の支援が重要視されている。さらに,科学技術・学術審議会学術分科会は『大学図書館の整備について(審議のまとめ):変革する大学にあって求められる大学図書館像』(平成22(2010)年)をまとめ,自ら学ぶ学生の支援の方法の一つとして,「学生の自学自習を支援するためには,教員や図書館職員だけではなく,大学院生や学部3,4年生などが自身の経験などに基づき下級生を指導する体制を組織化することも効果があると考えられる」と提言し,ピア・サポート制度についても言及している。
学生による学生のためのピアサポートは,教職員には見えづらい現代学生の支援ニーズに応えると同時に,支援する側の学生の成長も期待できる。しかしながら,どのようなサポートができるのか,あるいはどのようなサポートが必要とされているのかは,大学の学習環境や学習内容,大学の特性によって個々に異なる。
本研究においては本学でピア・サポート制度を実施する場合のインパクトと課題を検証することを目的に,他大学の事例を参考にして,本学情報ライブラリー本館を対象に実験的に実施した。本学の1年間の試行事例を検証する。

16:45 市立図書館における業務執行体制に関する事例報告:山口市立中央図書館を一例に
発表者:山根 薫(山口市立中央図書館)

発表の概要:公共図書館では、日々繰り返される定型的業務も多いが、近年では社会状況の変化に合わせた創造性の発揮が求められる部分が増えてきている。雇用形態の異なる多くの職員が働く図書館の業務執行体制についても、より効率的な業務執行と、合わせて職員の創造性が発揮できる体制の構築が必要と思料される。
そこで、山口市立中央図書館で行った図書館内の機構改革を例に、公共図書館の業務執行体制について考察してみたい。
山口市立中央図書館では平成27年3月に、業務執行を組織化・体系化することを目的に業務執行体制の再構築を行った。
再構築のポイントは、正規・嘱託・臨時職員の役割分担の明確化と、業務のグループ化である。これまでは個々の事務をその都度職員に割り振ることとしていたが、各事務を8つに分類・グループ化し、そのグループに職員を割り振り、職位に応じた役割を果たさせることとした。
役割分担については、司書資格を持っている嘱託職員が現場業務の執行の中心となり、臨時職員がその補助を行うこととし、正規職員が各グループのリーダーとして業務執行調整や進行管理を行うこととした。また、主幹は個別事務を持たず、業務グループ間の調整と担当総括に専念することとしている。
業務グループ化については、現在行っている業務を抜きだしたうえで、それを8つのグループ(総務、庶務・システム管理、資料整備、資料管理、フロアサービス、個別サービス、ネットワークサービス、企画調整・広報)に分類した。
そして、各業務グループに所属する嘱託・臨時職員を正規職員が束ねて各グループの業務を遂行していき、業務グループ間の調整と統括を主幹が、部署としての全体統括を館長が行うこととしたものである。このように役所のようなツリー型組織体制にすることで、業務執行の体系化を図ろうとしたものであるが、各職員は各自の責任範囲が明確になり、職務範囲に応じた創意工夫が行いやすくなることを目指している。
この執行体制の変更については、実施してまだ数か月であり、まだ何らかの評価を行うには時期尚早であろうが、さらなる業務効率の向上と職員の能力活用を目指して、今後とも改善を進めていきたい。

17:15 奄美大島名瀬における図書館運営の特質:島尾イズム(島尾敏雄)の継承を中心として
発表者:工藤邦彦(別府大学)

発表の概要:奄美群島の中核都市である奄美大島名瀬では、鹿児島県立図書館奄美分館長の職にあった島尾敏雄の図書館運営が現在もなお顕彰されている。本発表では離島圏域における図書館活動の在り方を検討する一環として、1958(昭和33)年、名瀬に開館し島尾が勤務した鹿児島県立図書館奄美分館および分館閉館後の2009(平成21)年、新規開館した鹿児島県立奄美図書館が実施した事業から図書館運営の特質を検証する。
1955(昭和30)年から約20年間、名瀬に居住した島尾には「郷土史家としての島尾」、「作家としての島尾」、「分館長としての島尾」、「教師としての島尾」の4つのシルエットが浮かび上がる。「郷土史家としての島尾」は、奄美郷土研究会を再興のうえ、郷土資料の収集整備に努め、各種目録を刊行するカタロガーとしての仕事が色濃い。「作家としての島尾」は、南島文学研究と奄美文学史編纂に係る資料の蒐集完備に努めたコレクターの姿である。資料群は、県立奄美図書館に設置の島尾敏雄記念室を起点に、企画展示を行う文学館機能の構築に寄与した。「分館長としての島尾」は、久保田彦穂鹿児島県立図書館長の薫陶を受け、奄美群島の集落(シマ)に向けた貸出文庫といった地方奉仕に励み、読書推進における伝道者の側面を見せた。「教師としての島尾」は、分館長就任前後に鹿児島県立大島高等学校、大島実業高等学校定時制の非常勤講師として着任した。また分館勤務の傍ら、読書会を組織し会員誌『島にて』発刊においては会員の指導にあたった。
名瀬に根付いた保存図書館、参考図書館、貸出図書館としての運営には、離島都市である名瀬と集落(シマ)との繋がりを第一義と考え、“島尾イズム”が継承されている点にその特質がある。

17:45 研究発表会閉会