西日本図書館学会 令和元年度 秋季研究発表会

令和元年11月 30日(土)
久留米大学サテライトオフィス(福岡市天神)

12:00 卒業論文作成における情報検索・情報収集の理解度‐大学図書館はどのような支援が可能か
 /  工藤 彩(久留米大学御井図書館・司書)

概要 : 久留米大学御井図書館では、学習支援の一環として2006年から「新入生向け図書館オリエンテーション」を実施し、さらに2015年後期からは「文献調査ガイダンス」を実施している。文献調査ガイダンスは、レポート作成時の文献検索を想定した基礎編と、卒業論文作成時の文献探索を想定し、教員の専門分野により深化した内容で行う応用編で実施している。さらに、レファレンスカウンターでのレファレンスサービスに加え、2018年後期より授業期の週1回図書館外のラーニング・コモンズに出向き、レポートや卒業論文の資料収集の相談に応じている。

図書館が実施する卒業論文作成への支援がどのくらい学生の情報検索・情報収集を支援しているか確認するために、文学部情報社会学科の3年生を対象にGoogleフォームを使用した質問紙調査を実施した。この質問紙調査では、図書館による卒業論文作成への支援の受講の状況や図書館資料についての状況を把握するとともに、学生の卒業論文作成時における情報検索・情報収集の実態を調査した。

本発表では、卒業論文作成における情報検索・情報収集の理解度を分析し、図書館が実施する卒業論文作成への支援の課題について報告する。

12:30 司書養成にビジネススキルは必要か
 / 東野善男(富山短期大学経営情報学科 准教授)

概要 : 富山短期大学は、その創立当初から司書課程を設置し、県内唯一の司書養成機関として50年以上の歴史を有する。司書課程は2001年の文学科(英文専攻・国文専攻)の廃止後は、経営情報学科に設置され、現在に至る。

経営情報学科のディプロマ・ポリシーには、次のような力を身につけることを掲げている。

①健康で豊かな人間性と真摯な人間関係力・協働力
②社会常識・マナーをわきまえた、責任ある行動力
③自ら主体的に学び、考え、実践する能力と、学び続ける姿勢
④経済・経営、簿記・会計、情報、ビジネス実務等の実践的知識・技能と実践力

一言では、「ビジネススキル」と置き換えることもできると考える。そこで司書課程においても、「ビジネススキル」を養成できるのか、考察をすすめた。

はじめに、司書課程の特徴として、①学外授業の未実施②現場からの要望③困難な就職活動を挙げる。①②は本学の特徴であり、③は一般的な状況と思われる。他方、受講者のアンケートの結果では、新卒採用時に司書として就職する意志が確認できる。

次に、コミュニケーション能力と同時に実務経験を学生に身につけさせるために、実施を試みているのが、「フィールドスタディ」である。2018・2019年度は、図書館実習の準備に加え、地域活性化事業(古本市)を実施した。実施内容の報告を行った上で、成果としてビジネススキルの向上結果を検証しておきたい。

 最後に、地域社会に貢献できる人材を司書課程の学びを通じて育成することを今後の課題とする。

13:00 長崎外国人居留地における書籍縦覧所の建設について
 / 森 茂樹(久留米大学文学部 非常勤講師)

概要 : 長崎県立長崎図書館から長崎歴史文化博物館へ移管された史料に、明治期の長崎県庁事務簿約8,000冊の行政文書がある。長崎には江戸時代に海外との窓口であった出島があり、1858年に締結された安政五カ国条約により、幕末から明治にかけて外国人居留地ができ、各国領事館や外国人住居等も設置された。そのため、長崎県に居留地を初めとする対外国関係、外国人に関する業務を担当した外事課が設けられ、その行政文書の事務簿綴が保存されている。

 表紙名「外務課事務簿 外国人居留地ノ部 明治13年中」の事務簿綴があり、その中に「英国領事ヨリ書籍縦覧所建設ニ付地所借用ノ儀請求ノ件」という件名の申請書類があることがわかった。内容は、書籍縦覧所建設のために大浦地区の土地を借地するために英国領事から提出された長崎県令宛ての申請書類に関する県庁内の伺文書である。

 この書類に記載されている長崎の外国人居留地における書籍縦覧所の建設の経緯と、併せて同じ外国人居留地のある横浜及び神戸での状況について発表する。

 また、幕末から明治初期に長崎に関係した外国人による図書館設立等の動きについて紹介する。

<13:30-13:45 休憩>

13:45 松江市学校図書館政策の形成過程〜政策ネットワークモデルによる分析
 / 木内公一郎(島根県立大学 人間文化学部 地域文化学科 講師)
 / 石井大輔(島根県立大学 人間文化学部 地域文化学科 准教授)

概要:本研究の目的は島根県松江市の学校司書配置事業およびそれに深く関連する学校図書館支援センター事業の政策としてその形成過程を明らかにすることである。松江市の学校図書館事業は多くの事例報告でも取り上げられている通り、全学校に学校司書に配置し、さらに小学校・中学校を一貫した「学び方指導体系表」を持ち、効果的な学校図書館教育を実践している。

本研究の問題意識はこれらの優れた事業がどのような政策過程を経て形成されたのかということである。政策形成過程とは(1)政策問題の確認 (2)アジェンダ設定(3)政策提案の立案(4)政策提案の評価と選択(5)政策の実施(6)政策の評価、という一連のプロセスを指す。(宮川公男『政策科学入門 第2版』東洋経済新報社, 2002, p.181-183. )

 本研究では政策ネットワークという概念モデルを使用する。これは公的機関や民間のアクターが関わる相互依存のネットワークに注目し、その中でアクターの協働により展開される政策およびその作成・決定・実施プロセスを考察するための概念モデルである。本研究ではRhodesとMarshが確立した類型論をもとに調査研究を行う。(R.A. Rhodes and David Marsh. ” New Directions in The Study of
Policy Networks” European Journal of Political Research. 21, 1992, p.181-205.)

この類型論では、メンバーシップ、統合、資源、権力の4つの次元から分析する方法を採用している。そしてその傾向の違いによって「政策共同体」と「イシュー・ネットワーク」の2類型に集約している。これらを指標として用いることによって、誰がいつどのように関与したのか、コミュニケーションの頻度や内容、アクターが保有する資源など政策形成の諸条件を明らかにすることができる。

なお、本発表は中間報告として1999年から松江市と東出雲町が合併する直前の2010年までを対象とする。市民団体、島根県知事、島根県教育委員会、松江市教育委員会、県議会、市議会、市長など多くのアクターが関わった政策形成の過程と構造を文献調査から明らかにする。

14:15 福岡県における公立図書館の管理運営制度の変遷についての一考察~小郡市立図書館の事例を中心に~
 / 永利 和則(福岡女子短期大学 特任教授)

概要 : 国は行財政改革の旗の下、業務委託、PFI、指定管理者制度など多様な管理運営体制を導入し、「官から民へ」の掛け声とともに民間業者による公立図書館の管理運営を推進している。一方、福岡県では、1990年代に入ると、多くの自治体が新たな公立図書館を建設するようになり、2018年度には53自治体(88.3%)に公立図書館が設置された。しかし、それらの公立図書館では、直営以外にもさまざまな管理運営体制がとられている。1990年代に新設された福岡県内の公立図書館の多くは、財団法人による管理委託制度を導入する傾向にあり、そのほとんどが2006年度以降に財団法人による指定管理者制度へと移行していったが、その後、一部は民間企業が指定管理者へと変更している。さらに、2018年度には指定管理者制度を導入する自治体は18自治体と増え、福岡県全体の34.0%に及び、全国平均(16.7%)を上回っている。また、業務委託を導入する9自治体の中には、指定管理者制度も併用している自治体が4自治体あることがわかった。このように、民間企業の参入している管理運営体制では、その形態が複雑化しても積極的に取り入れられていることが明らかになった。1987年に開館した小郡市立図書館では当初は直営での業務委託、2002年度からは財団法人小郡市公園ふれあい公社による管理委託制度、2006年度からは同じ財団法人による指定管理者制度、2009年度からは直営への復帰へと管理運営体制が変遷していった。そこには、小郡市総合振興計画、小郡市行政改革大綱・集中改革プラン、第1次行政改革行動計画等、市長の意思を政策に反映した総合計画・個別計画が大きく関わっていた。また、図書館の現場においては、組織内での意思決定と伝達、行政の組織間での情報共有と連絡調整、政策提言等に課題があることが明らかになった。

14:45 公共図書館の活動を評価する総合的指標開発に関する予備的検討:アメリカ合衆国の公共図書館の近年の活動に見るサービスメニューとその実態を参照して
 / 山本 順一(桃山学院大学経営学部・経営学研究科)

概要 : 現在、サーチエンジンのGoogleにあたればたいていの求める知識情報が得られ、Amazonを利用すればたいていの図書や雑誌が紙、もしくはe-bookで入手、アクセスできるし、定額制の電子書籍読み放題サービスも提供されている。映画についても、Amazonプライムのほか、Huluや
NETFLIXで気軽にオンデマンド定額で利用できる。このようなデジタルネットワークの新たな時代においても、日本の公共図書館界はいまなお従来通りの貸出冊数、来館者数を主要な活動成果の指標としている。この研究発表では、博物館・図書館サービス振興機構(Institute
of Museum and Library Services)が発行している年次報告書等、アメリカ図書館協会が発行している「アメリカの図書館の現況報告」(State
of America’s Libraries Report)等、および中立的な研究機関として評価の高いピューリサーチセンター(Pew
Research Center)が行った各種の図書館調査、そしてその他の関係資料を参照、吟味検討し、アメリカ公共図書館の機能変化と現況、問題点を明らかにしたうえで、この国の公共図書館活動の現在と近未来を評価するにふさわしい指標の体系を模索することにしたい。

 なお、本研究発表は、2019年度科学研究補助金の基盤研究(B)「公共図書館の多様な活動を評価する総合的指標の開発」(研究代表者 原田隆史)の成果の一部となるものである。

<15:15-15:30 休憩>

15:30 公立図書館における「有害図書類」の標準的な取扱い基準の作成のための基礎的研究
 / 安光裕子(山口県立大学学術情報センター所長・図書館長 教授)
 / 藪本知二(山口県立大学社会福祉学部教授)

概要 : 現在,都道府県等の地方自治体ではその条例により,青少年の健全育成または保護等のため青少年に有害な図書類を指定する制度が設けられている*。しかしながら,「図書,記録その他必要な資料を収集し,整理し,保存して一般公衆の利用に供し,その教養,調査研究,レクリエーション等に資することを目的とする施設」である公立図書館が,この「有害図書類」をどのように取り扱えばよいかは必ずしも明確ではない。なぜならば,この問いに対する答えを導き出す一義的に明らかな条項は,そのような条例に看取することが困難だからである。

そこで,全国の公立図書館(都道府県立・市区立)で「有害図書類」がどのように取り扱われているかを明らかにする目的でアンケート調査を実施した。

なお,このアンケート調査は,かつて山口県内および福岡県内の公立図書館を対象としたアンケート調査の質問等を見直して,実施したものである。このたびのアンケート調査の結果を手掛かりに,上記の問いに対する答えを検討したい。

本発表では,調査の概要を報告すると共に,有害図書の収集ならびに青少年および大人への取扱い(閲覧・貸出)に関する調査結果を中心に報告する。

*都道府県レベルで有害図書類指定制度がないのは,長野県のみである。なお,長野県内の4市(佐久市,塩尻市,東御市,長野市)には,有害図書類指定制度がある。

16:00 草創期の鹿児島県立図書館―初代館長片山信太郎の活動を中心に―
 / 濵田みゆき(志學館大学図書館・司書)

概要 : 日本初の公共図書館「京都集書院」が明治5年(1872)に設けられ、少し遅れて鹿児島県の図書館の歴史も始まる。鹿児島県立図書館は、明治45年(1912)4月に私立鹿児島図書館が県に移管され、鹿児島県立図書館として開設されたものである。

その県立図書館の初代館長として赴任したのが、片山である。片山は京都大学附属図書館勤務時代に、日本の図書館員養成教育の始まりとされる第1回図書館事項講習会を受講し、当時の最先端の図書館理論を学んだ。その後、東京市立日比谷図書館での勤務を経て、鹿児島県立図書館へ大正元年10月に初代館長として赴任してきた。

片山は東京市立日比谷圖書館勤務時代「圖書簡員の養成は今日の急務なり」と題する論を『図書館雑誌』第6号に発表している。本発表では、鹿児島県立図書館の活動と共に、当時の図書館界の理論や理念及び片山の自身の手による論文や新聞への談話などから、多角的に片山の鹿児島県立図書館時代の足跡を追うことを目的としている。また、併せて、他県との比較も行いたい。これらから、近代的な図書館運営を目指したであろう片山の鹿児島県立図書館長としての実践を考察したい。

16:30 占領下沖縄における図書館事情
 / 漢那憲治(沖縄国際大学南島文化研究所・特別研究員)

概要 : 戦後沖縄の図書館活動を振り返って見るとき、琉米文化会館の図書館活動は見落とせない。戦後の図書館復興過程の中で、1947年に沖縄民政府中央図書館石川分館、知念の中央図書館(後に那覇市)、首里分館、名護分館が設置された。ところが、米軍の占領文化下政策の一環として情報センター構想が持ち上がり、首里を除いた3館が琉米文化会館として米国民政府の直轄となった。さらに、琉球政府発足(1952)時に、宮古琉米文化会館と八重山文化会館が設置され、5つの琉米文化会館(那覇、石川、名護、宮古、八重山)が沖縄における公共図書館の中心的な役割を果たした。子どもたち(小・中・高生)や青年たちがよく利用した。また、遠隔地への移動図書館・巡回文庫サ-ビスや映写会なども実施した。さらに、1960年代には、琉米文化会館と同様な機能を持つ自治体の文化施設であるコザ、嘉手納、糸満、座間味に琉米親善センタ―が設置された。これらの施設・機関は米国式の近代的な図書館サ-ビスを中心に、中央公民館・社会教育的機能を兼ね備えていた。琉米文化会館についての研究には多々ある。一方、琉米親善センタ-については、これまでほとんど言及されていない。本発表では、琉米親善センタ-を取り上げて、その成立過程の動向と図書館活動について論ずる。

17:00 「司書(教諭)は子ども達が賢くなるための仕掛人」
 / 宍道 勉(鳥取大学非常勤講師)

概要 : 読書指導の定番「読み聞かせ(reading books to children)」は,大人が子どもたちに本を読み,何かを聞き取ることである.それが大人しく話を聞くように強制する「読み聞かせ(making listen books to children)」に変色した.誰が(機関)すり替えたのか不明だが,図書館で借りる本の数を競わせるとともに「聞く能力」を育むのが目的になった.子どもといえど,年齢が上がれば何事にも従うのを嫌がるので,貸出数減少に不読者数増加が伴う.「態度」まで厳しくなると,子どもたちは窮屈になる.さらに「良かった,面白かったか」の感想が追い討ちを掛け,来館者減少の原因ともなる.しかし誰か?はそれを承知しながら,原因の追求どころか,ボランティアを増やし技術の向上で解決する,と逃げる.

 また図書館人(司書,市民)には「子どもたちが本に興味を持ち,好きになる」とされる歴史ある外国製の方法,あるテーマでさまざまな分野の本を選び子どもたちに紹介するブックトークは,中から興味のある本を見つけて読む自由があるという.しかし,紹介者が何冊もの本を選択するのは大変な作業である,然るに子どもたちの求める本と一致しない欠陥がある.

 また「予め」指定した本を読ませ,覚えさせ,クイズで遊ぶ方式がある.強制を嫌がる子どもたちは元より喜ばないから,図書館利用を促す方法とは思えない.二例とも研修会や講演で耳にした図書館人は話し手の「べき論」を安易に受け止め「良い方法と論理」に違いないと信じこむ.

 これらは既存の読書運動として認められており,これらに経験のない論者に否定する資格はないし,異論も挟めない.

 そこで本論は「子ども達が賢くなる方向に導く」強制のない仕掛けの提唱をする.それが「子どもたちが自主的に本を選び.読むようになる」になるの確信がある.

 以下は大学生と小中高教師に対し実践した仕掛けである.

1.国語辞典と漢和辞典を使用する「しりとり遊び」と「漢字しりとり遊び」
ことばを「紙」の辞典で参照することが「学んでいる自覚」の第一歩である
2.出会った「ことば」をカード辞典に記録
その「ことば」を最初「自分のことば」で描く,次に辞典の語義をカードに書き写す.
3.レトリック遊び
図書館で文学書(小説等)を選び,読み,レトリック表現を見つけ「カード」に記録し,次に通常の表現に戻る.
4.レファレンスごっこ
「しりとり」で出会った「ことば」の語義と連想(インスピレーション)を手に図書館で本を選ぶ.
5.子ども達のブックトーク
レファレンスごっこで選んだ本の楽しさを友人と互いに紹介し合う.
6.その他

以上